ストーリー 3,7
「ったく、またか!」
ここに着いてから、引っ切り無しに魔物の襲撃を受けている。今日の相手は空中から攻めてきた。
『あれじゃ剣が届かねぇ!』
「まさかワイバーンとはな。もっとSAXの用意しておけば良かった」
『せっかく新調してもらったのに。これじゃキリがない……』
鱗も硬く、イールの弓でも一撃必殺とはいかない。正規兵や王女様の方も手をこまねいているようで、法術部隊が散発的に魔術を放って何とか対処しているのが精々という感じだった。歩兵は偶に低空飛行してくる魔物から法術部隊を護衛してるぐらいか。
「弾幕薄いよ何やってんの、ってところだな」
『弾幕……ですか?』
「いや、こっちの話。それより……、そうだな、あれで試してみるか。ロー、パース!」
アスカロン装備のSAXを投げ渡す。
『え、いや助かるけども……?』
「団長、さっき説明した新システム、ぶっつけ本番だけど使える?」
『……恐らく。魔力的には問題ありません。制御も……やってみせます』
よし、これなら最低限の対空火力は維持できるだろう。後は――――
『あの……私はこのままですか?』
「ああ、トハクにはちょっと手を貸してもらおうかなって」
◇◇◇
「んじゃいくぞ。3,2,1……Go!」
『そぉーりゃぁ!!!』
トハクのリッパーコマンドに蹴り上げてもらい、更にマナスラスターを吹かすことで、魔物と同じ高度まで到達することに成功した。
「悪いけど、足場に使わせてもらうぞ」
手近にいた魔物を捕まえて、斬り付けると同時に踏み付けて跳躍。次の標的を捕まえて……と繰り返していった。
「まるで絶叫系アトラクションだな。ちょっとでも気を抜いたら落っこちそうだ」
何体か仕留めた結果、優先的に排除するべきと判断されたようだ。魔物達はこっちに集中するようになる。囲まれる形にはなるが――――
「そうそう。それで良いんだよ」
地上にいる射手達から見れば隙だらけだ。一撃とは行かなくても、何度も当て続けていれば限界も来る。
「さて、全滅するまで付き合ってもらおうかぁ!」
◇◇◇
魔物の群れを仕留め切って、やっと陣地に帰ってこれた。少し休憩したら、ライドゴーレムの整備しないとな。
「……はぁ~疲れたぁぁぁ」
「お疲れ様です。それにしても、あんな戦い方をするなんて。少し驚きました」
確かに。自分でも少し危ない橋を渡ったような気がしないでもない。他に良い案が思い付かなかったから……というのは言い訳か。
「今後は無茶しないで済ませたい、って思うよ。それより、フレイヤの方は使ってみてどうだった?」
「特に不具合のようなものは感じませんでしたね。ただ、2つの魔法陣を同時に制御するというのはやはり難しかったです」
放熱システムを見直している内に十分な余裕が生まれ、試験的に導入してみた新装備。砦で使われているものと同様の攻撃用魔法陣を刻みこんだ、ガントレット型の腕部追加装甲だ。刻印の形が異なるだけで、原理としてはマナスラスターと同じだったりする。色々データを集めてみたいし、いずれは魔法陣の効果ごとにユニットパーツ化して、マルチロールな換装機も造ってみたいものだ。
◇◇◇
そして更に数日が経過する。
『それにしても……』
ライドゴーレムでの訓練中、ローがそんな感じで話を切り出した。
「ん? 機体に異常でもあったか?」
『ああ、いや。そうじゃねぇんだ。ほら、俺たちって帝国のゴーレムとやらの対策で呼ばれたわけだろ? なのに、ここに来てから魔物の相手しかしてないから……なんて言うか、その……大丈夫なのかなって』
そうなんだよなぁ。魔物への対応や陣地での作業でライドゴーレムが役立っているから、何も言われないどころかむしろ感謝されてる状況なんだけど、本来の目的を果たせていないっていう点は結構気になっていた。
「帝国軍が一切動きを見せないんだから仕方ないって。魔物への対応で向こうも手一杯ってオチかもな」
『て言うか魔物の数も多過ぎると思わねぇか?』
「え? 今までも日常茶飯事だったし、そういうものじゃないの?」
『いや、砦の周りで多かったのは、前にデカい魔術を使った影響があるから、みたいなことを団長が言ってた……はず』
だったらここでも似たようなことが起こってたとか? でもそれなら事前に説明とかあるんじゃ……? しかし結局、色々考えても埒が明かないということで、訓練や機体の整備を行いつつ、帝国軍の動きに備えることにした。……他にやれることも無いし。砦の方の皆は、どうしてるかなぁ……。