ストーリー 1.1
その戦場には、まるで地獄のような光景が広がっていた。いたるところに人だったものが転がり、普段乾いている大地が赤黒い血で濡れていた。
「くそっ! 帝国の奴ら、あんなもん持ってきやがって!」
「そんなこと言ってる場合かよ! さっさと退くぞ!!」
剣や鎧を纏った兵士が戦場を駆け巡る。彼らの顔には、焦りや恐怖といった感情ばかりが浮かんでいた。
「レナ隊長とモンド隊長が!? どうすんだよ!」
二人の小隊長を失い、その下に従っていた兵士達は完全に混乱していた。
「どうする、団長? もう、あれしか手はないぞ」
「……重装兵を前に出して足止めをさせて。その隙に法術兵で攻撃を」
団長と呼ばれた女性、ミリアは顔を歪ませて指示を出した。
「了解。足止めだけならなんとかやってやる」
「ごめんなさい、リグ。こんなことしか思い付かなくて……」
その声はか細く、僅かに湿っていた。
「気にすんなって。相手が相手なんだ」
そう言って、リグは部屋を出ていった。
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
繰り返される言葉は、誰の耳にも届かなかった。
それからすぐ後、ミリアの指示は各所に伝えられ、兵士達が動き始める。重装兵は隊列を組んで敵に向かい、法術兵は攻撃魔法の用意をする。直接参加しない他の歩兵は不測の事態に備え、非戦闘員も自らの役割を果たそうとしている。
「いくぞ!!」
「「「おおーーー!!!」」」
兵士達は叫び、一点を見据える。その視線の先には――――
◇◇◇
「ゴーレム?」
俺は自分の声で目を覚ました。外は暗く、窓からは月の光が差し込んでいた。
「ヘンな夢だったなぁ……って、まだ3時じゃん」
もう一度ベッドに入ったが、眠くなるどころか目が冴えてきてしまった。
「あー、もういいや。それより腹減ったな」
冷蔵庫は空だった。ケチャップは少しだけ残っているが、このタイミングでは役に立たない。
「しゃーない。コンビニ行くか」
手早く着替えて家を出る。すぐそこのコンビニとはいえ寝間着での外出は気が引けた。
「どうすっかなぁ。ラーメンは胃もたれするし……」
家から出たとき、暗いはずの夜道が白い光に染められた。その光の奥から、何か大きな物が近づいてくるのが見えた。
「何でこんな道にトラックが!?」
家の前の道は狭く、車どころかバイクが入ってくることも稀なことだった。
「ってヤベェ轢かれる!」
焦っている内にトラックはもう目の前にまで迫っていた。終わった―――そう思った瞬間、ある物が視界に入った。それはまるで、視線が引っ張られたような感じだった。
「マンホール!?」
工事の後の閉め忘れか? 多少の不自然さはあったが、轢死よりはマシだと思ってその中に飛び込んだ。
「あ……これはこれで、ヤバ……」
予想した以上に長く続く浮遊感。そして、言葉にならない奇妙な感覚に襲われて意識を手放してしまった。
◇◇◇
「…………、……イ、おい!」
何者かに呼び掛けられて、目が覚めた……多分。疑問形になったのは目の前の光景が余りにも非現実的だったからだ。だって普通―――
「お前何者だ? 何でゲートから出て来たんだ!」
―――目が覚めたら、鎧を着た集団に剣や槍を突き付けられていた、なんてことは起こらないだろうから。
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