(3)
死神に魂を抜き取られたかのような三人の死を目の当たりにして、その場にいた誰もが背筋に冷たい戦慄を覚えた。
セフィーゼの風魔法とはまた違う、即死魔法の恐怖を肌で感じたのだ。
魔法の知識がある僕でさえ体が震えを抑えることができない。
ましてやリナは――
今、真っ先に狙われるのは、アリスの身代わりになった彼女かもしれないのだ。
「大丈夫ですか? リナ様」
僕はリナに訊いた。
「……リナ? 違います。今の私はアリスです」
リナは特におびえた様子は見せない。
外見だけではなく、性格までアリスになり切ろうとしているのだ。
リナのあまりの変身ぶりに驚いていると――
もう一人、恐るべき敵に毅然と立ち向かおうとしている人がいた。
マティアスだ。
即死魔法をものともしなかったマティアスは、冷徹な表情を崩さないまま、するりと背中の剣を抜いた。
「キサマ、どうやって魔法を防いだ? 普通の人間なら即死しているはず――」
ローブの魔女は平然と剣を構えるマティアスを見て、訝しげな声を出した。
「鎧か……そうか、その鎧の効果だな」
なるほど、戦場でもやたら目立っていたマティアスの赤銅色の鎧は、闇魔法に耐性のある聖なる装備だったのだ。
ハイオークとの戦いでひどくひしゃげてしまったけれど、特殊効果は残っていたらしい。
だが、マティアスは魔女の言うことには取り合わず、剣を上段に構えて叫んだ。
「それをお前が知る必要はない――ゆくぞ!」
マティアスの掛け声とともに、竜騎士団の前衛10騎がローブの魔女目指し突撃を開始した。
いきなり三人の竜騎士が殺され、もはや様子見している段階ではない。
多少の犠牲は覚悟の上、数で押し切って強行突破するつもりなのだ。
「愚か者どもめ!」
ローブの魔女は舌打ちし叫んだ。
「シャノン!」
「…………」
シャノンと呼ばれた黒髪の女剣士は、何も言わず、寄りかかっていた枯れ木からパッと離れ道の中央に踊り出た。
魔女を守るため、突進してくる竜騎士を真正面で迎え撃つのか――
と、思いきや、シャノンは地面を蹴りあげ一気に空へ高く跳んだ。
『リープ』の魔法を使ったかのような、驚くべきジャンプ力。
シャノンの体は一瞬にして、馬上の竜騎士よりはるかに高く、木々のてっぺん近くまで浮き上がった。
その美しい髪が、まるで大きな羽を広げた黒鳥のように空中でパッと広がり、暗い森と見事に溶け合う。
――シャノンの姿が消えた!
と、錯覚した時にはもう手遅れだった。
シャノンは抜刀し、竜騎士の一人に的を定めて急降下していた。




