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異世界最弱だけど最強のヒーラー  作者: 波崎コウ
第十章 恐怖の森
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(2)

 その時、竜騎士の一人がリナの横に馬を付け、

「リナ殿、お願いします」

 と、小さく声をかけた。


「分かっています。任せください」


 リナはうなずくと、背筋をピンと伸ばし濃紺のマントをひるがえした。

 その王者の風格漂う堂々たる姿はまさしくアリス王女そのもの。

 知らない人が見れば絶対に本人だと思うだろう。


 しかし、だからこそ余計に危険極まりないのだ。

 この影武者作戦は。


 もし本気でリナのことが好きならば、アリスの身代わりなんて止めさせるべきなのに、僕にはそれができなかった。

 ただなすがまま、事態の展開を見守るだけという情けなさだ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 竜騎士団は森の出口に向かってゆっくりと進んでいった。

 まもなく、行く手を(さえぎ)る二人の姿がはっきり見えてきた。


 一人は何かを待つように静かに枯れ木に寄りかかっている。

 もう一人は道の中央に立ちこちらの出方をじっとうかがっている。


 マティアス二人を注視し、少し驚いたようにつぶやいた。


「どちらも女か……」


 マティアスの言うとおり、木に寄りかかっている一人は、(つや)やかな黒髪を腰まで伸ばした背の高い若い女だった。


 切れ長の目に長いまつげにツンとした鼻、紅色の薄い唇が特徴的で、アリスやリナにないクールで大人っぽい美しさがある。

 防具は特に身に付けていないが、日本刀のような緩い反りの入った長剣を抱えているから、おそらく職業ジョブは剣士なのだろう。


 それより不気味なのは、道の真ん中に立つ、灰色のフードローブを頭からすっぽりかぶった謎の人物だ。

 フードの奥は真っ暗でどんな顔をしているのかはまったく見えないが、ローブの下に浮き出ている大きな胸からして、女であることは確かだ。

 武器は一切持っていないから、このローブの女が魔法使いタイプであることは、まず間違いなかった。


 そしてその二人は、暗い森の中でひときわ目を引く不思議な光を全身から放っていた。

 剣の女は冷たく研ぎ澄まされた青い輝きを。

 ローブの女は怪しく禍々(まがまが)しげな紫の輝きを。


 一目で分かる。

 あれはオーラだ。

 ただならぬ殺気を含んだ殺人オーラだ。 


 竜騎士たちはそのパワーに気圧(けお)されるように、二人のかなり手前で立ち止まった。

 が、マティアスだけが前に出て叫んだ。


「我々は先を急いでいる。そこを通してもらおう!」


 しかし二人は呼びかけに応じない。

 何も聞こえていないかのように黙り込んでいる。


「もう一度言う。そこをどけ! さもなくば――強行突破する!」


「ロードラントの竜騎士……」


 突如、森の中に妙に艶やかで色気たっぷりな声がこだました。

 ローブの女の声だ。


「戦いからしっぽを巻いて逃げ出すネズミを見張っていたら、とんだ大物が飛び込んできたようだねえ」


 どうやら二人とも簡単には道を開けてはくれないらしい。

 だとすると奴らイーザの一味なのか?

 でも、ちょっと雰囲気が違うような気もする。


「黙れ!」

 マティアスが鋭く叫んだ。

「通すのか通さないのか、どちらだ!」


「通すのか通さないのか、だって――?」 

 ローブの女はオウム返しにそう言って、フフフ、と怪しい笑い声を漏らした。

「罠に掛った獲物を、猟師がみすみす逃すと思うか!」

      

「なにっ!?」


 マティアスが身構える間もなく、ローブの女は袂から杖を取り出し呪文を唱えた。


『ソウルスティール――!!』

 

 同時に杖の先から紫色の光弾が発射される。


 ヤバい! 

 予想通りこの女は魔法使い。

 しかも邪悪な闇魔法、妖術使いだ。

 

 そう思った瞬間――

 紫の光弾がパッとはじけ、先頭に立つマティアスとその横にいた三人の竜騎士に直撃した。


「!!!!!」


 マティアスはなぜか無事だった。

 が、それ以外の竜騎士三人は光弾が当たった直後、体が硬直し、馬からずり落ちて地面に倒れてしまった。

 魔女の放った『ソウルスティール』によって、一瞬で命を奪われたのだ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



『ソウルスティール』


 敵数体の命を一定の確率で奪う闇魔法。

 威力はかなり強力で、防御魔法の『マジックガード』や『リフレクト』では対抗できない。

 即死を防ぐには、あらかじめ祝福されたアイテム『聖水』を使っておくしかないはずだ。




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