(6)
「アリス様、リナ様、そしてレーモン様も10数える間は絶対に目をつぶっていて下さいね。
――それではアリス様、お願いします」
「わかった。任せておけ」
アリスはそう言って白馬に飛び乗り、周囲を見回した。
「しかしここまで騒がしいと、よほど声を張り上げなければなるまいな」
それはアリスの言う通りだった。
戦場という場所は様々な音が溢れ、とてもうるさい。
でもアリスなら大丈夫だろう。声の通りのよさはすでに実証済みなのだから。
「では、ゆくぞ」
アリスはそう宣言してから、思い切り息を吸い込んだ。
そして、今日一番の大声で、ロードラント全軍に号令をかけた。
「ロードラントの誇り高き兵士たちよ! よく聞け!」
鈴を振るような、それでいて力強いアリスの凛とした声が、戦場の隅々まで行き渡る。
「今から10数える間、目を閉じよ! わずかでも開いてはならない! これは命令だ!」
“戦っている最中に目をつぶる”
常識ではちょっとありえない、理不尽な命令だ。
兵士たちがざわつくのもわかる。
だが――
奇跡は起こった。
たとえどんなに困難な状況であっても、アリスならきっとなんとかしてくれる。だから命令に従おう。
みんな本気でそう思ったのかもしれない。
それとも単にヤケクソだったのかもしれない。
いずれにせよ、その時、戦場にいたロードラント軍の騎士と兵士は、みんな一斉に目を閉じた。
レーモンもリナも、もちろんアリスも――1人の例外なくそうしてくれたのだ。
今だ! 今しかない!!
僕は、自分の中の魔力を最大限まで高め、魔法を唱えた。
『ルミナス――!!』
すると一瞬にして、上空に強烈に輝く光の玉が出現し――
まるで超新星爆発のような、網膜を焼くほどの強烈な閃光がほとばしって、戦場全体を包み込んだのだった。
これが僕の、本当の最後の切り札だ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『ルミナス』
夜空やダンジョンなどの暗闇を照らす光の魔法。
いわば魔法の照明弾のようなものだが、様々な用途に使える。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
突如天空に出現した『ルミナス』の超高輝度の光の球――
まともに見れば目がつぶれてしまうぐらいの強烈な輝きも、当然、魔法を唱えた本人には悪い影響を及ぼさない。
それゆえ僕は、一変した戦場の様子を一人で悠々見渡すことができた。
まず魔法が発動した瞬間、二千のイーザ騎兵はあまりのまぶしさに目をくらませ、その場に釘で打ち付けられたように固まってしまった。
続いて、光に驚いた馬たちが激しく暴れ出し、それを御することのできなかったイーザ騎兵が多数落馬した。
その結果、乗り手を失った数十頭の馬はますます狂乱し、他の騎兵をなぎ倒しながらイーザ陣営の中を暴走するという大惨事を引き起こした。
かたや『ルミナス』の効果が続いていた10秒の間、目を閉じていたロードラント軍の兵士たちはまったくのノーダメージ。竜騎士の乗った馬も暴れることはなかった。
それはおそらく、馬の目を保護するために付けられた鋼鉄製の目隠しのおかげだったのだろう。
軽装備のイーザ騎兵との差がこんなところで出たのだ。
さらに後方から聞こえてくる、奇怪なうめき声。
これはやったか――
と、振り返る。
予想通り、そこに広がっていた光景は、数千のコボルト兵たちが手で目を覆い、地をのた打ち回る姿だった。
『スキャン』の魔法で調べた通り、コボルトは光には極端に弱かったのだ。
さらにコボルトは背丈が低いため、人間と戦う時はどうしても上向きになる。
その際『ルミナス』の光源がもろに目に入ってしまったのだろう。
これでコボルト兵の脅威はなくなった。
敵が視力を回復するまでにはそれなりの時間がかかるはずで、ロードラント軍が戦場から撤退する余裕は十分というわけだ。




