(6)
こいつ――なんて奴だ。
僕はセルジュをにらんだ。
腹が立って、すぐにでも魔法でとっちめてやりたがったが、背後に控える騎兵団のせいでそれができないのがもどかしい。
が、セルジュも、レムスを眠らされて相当むかついているらしく、怖い顔をして僕を脅しにかかった。
「おい、兄ちゃん。それ以上レムスに魔法を使ったらただじゃおかねえぞ! それに触れるのもぜってーだめだ。万が一レムスの身になんかあったらその時も騎兵で総攻撃だぜ! ――おい、そこのじーさん! 聞いてんのか、その剣を捨てろ!」
セルジュがショートソードを構えたままのレーモンに向かって怒鳴った。
「断る! 貴様の命令なぞ誰が従うか!」
レーモンは殺気立って叫んだ。
僕と同じく、セルジュの態度にぶち切れているのだ。
「アリス様、こやつのたわ言など気にするに及びませぬぞ」
レーモンはセルジュににじりよりながら、アリスに言った。
「一刀両断。私が即、成敗してくれましょう。どうぞお許しください」
「へえー、オレの言っていることがウソだと思ってんのかよ!」
セルジュは目を剥いて叫ぶ。
「じゃあ、やれるもんならやってみればいいぜ。けどな、その後騎兵が突撃してきてお仲間が皆殺しになっても泣きごと言うんじゃねえぞ。後でいくら謝っても許してやんねーから。ほらどうした、さっさと切りかかってこい!」
「まあ待て!」
その時、アリスがみんなの興奮をなだめるように声を上げた。
「セルジュ、知っての通り我々は決闘に勝利した。その場合イーザ側は素直に軍を引くという約束だったはずだ。まさかとは思うが、お前はその約束を破ろうというのか?」
「へっへーん。そんなの当ったり前だろ!」
セルジュは事もなげに言い放つ。
「あのさ、アリス王女様。勝利を目前にしたオレらがこのまま黙って引き下がると思った? だとしたら甘すぎだね。今まではセフィーゼのお遊びに付き合ってたけど、それももう終わりなんだよ」
「ほう」
アリスは無表情に答える。
「だいたいさ、目の前にこんな綺麗な王女様がいるのにオレがあっさり逃すワケないじゃん」
セルジュはそう言いながら、アリスの全身を舐めまわすように見た。
「でもまあ、決闘の負けは全部チャラにするとしても、オレにも情けってものはあるんだよね」
「と言うと?」
「セフィーゼが最初に出した条件なら呑んでやってもいい。つまりアリス王女がオレらの人質になってくれるなら他の奴らは助けてやってもいいぜ。あ、安心していいよ。アリス王女は俺がていねーいにおもてなしするから。こんな綺麗な王女様、レムスのエサにするのはもったいなくてもったいなくて」
セルジュのそのセリフの中には、何ともいえない不快な響きがあった。
こいつまさか、本当にアリスを……!
セルジュが窪地に隠れてなかなか出てこなかったのは、そこでアリスという獲物を虎視眈々と狙っていたためか。




