(4)
「そのサーベルタイガーを殺したらタダじゃおかねーからな!」
乱暴なセリフと共にひょっこり飛び出してきたのは、もう一頭の別のサーベルタイガーにまたがったやんちゃそうな少年だった。
いや、それとも少女か――?
というのも、彼、もしくは彼女の顔がセフィーゼにそっくりだったからだ。
ただし目の色が違う。
セフィーゼのそれが美しいエメラルド色だったの対し、その子は深い琥珀色の瞳を持っていた。
「やはり現れたか」
レーモンの眼光が鋭くなる。
「たいていの猛獣使いは飼いならした己の獣を他の何より大事にするものだからな」
なるほど!
レーモンが眠ったサーベルタイガーを周囲に見せつけるように殺そうとしたのは、飼い主をおびき出す目的もあったのだ。
「貴様、今までどこに隠れていた?」
レーモンが僕から受け取ったショートソードを構えて叫んだ。
「向こうにある窪地の底の方だよ。出てくるつもりはなかったけど、レムスが殺されそうになっちゃあ黙ってはいられないからな」
レムス――
僕が眠らせたサーベルタイガーの名前だろう。
「そなた、セフィーゼと顔が瓜二つだな。兄妹か?」
レーモンに代わってアリスが訊く。
「ご名答。って見ればわかるか。そうだよ、俺はセルジュ。セフィーゼの双子の弟、つまり男だからそこは間違うなよ」
セルジュはそう言ってサーベルタイガーの背を軽く蹴り、ストンと地上に降り立った。
「ロムルス、まて! そこから動くな」
セルジュは自分の乗ってきたサーベルタイガーに声をかけた。
するとロムルスと呼ばれたサーベルタイガーは、すぐさまその場にちょこんとお座りをした。
アリスを襲った獣と同種とは思えない従順さだ。
「あーあ、まいったまいった。そっちで眠らされているレムス、この大事な時に勝手に出てっちゃうんだもん。たくさん血を見て興奮したんだろうけど、やっぱまだまだ躾が足りなかったなあ」
セルジュは肩をすくめた。
アリスが危うくそのレムスに食い殺されそうになったのに、まったく悪びれる様子はない。
それどころか――
「でもまあレムスの気持ちも分かるんだよね。ここんとこまともなエサやってなかったから、レムスにはアリス様がすごいご馳走に見えちゃったんだ」
と、いきなり恐ろしいことを言い出した。




