(6)
その時だった。
僕のピンチに気づいたアリスが向こうの方から叫んだ。
「ユウト! どうした!!」
しかしアリスは今もヘクターと戦い続けている。
僕を助ける余裕などまったくないだろう。
でもそれでいい。
あとほんの少しの間、アリスがヘクターの攻撃に耐えてくれれば――
「なーんかさ、ユウト君と王女様、いい感じだったのに残念だったね。ま、すぐに一緒にあの世に送ったげるから――」
セフィーゼが目を閉じ、全神経を魔法に集中させる。
『風よ、イーザの精霊よ――
わたしにさらなる力を――!!』
セフィーゼの指先の風の渦巻きが勢いを増した。
彼女もすでに相当魔力を消費しているはずなのに、まだこんな余力があったのだ。
さあどうする?
『エアウィップ』の罠を、ずべての魔法効果を打ち消す白魔法『ブレイク』で消滅させ、油断しているセフィーゼに剣を突きつける。
正攻法ならそれだ。
が、もっと確実に逆転できる方法を僕はすでに思い付いていた。
セフィーゼに対してこの魔法を使うことは戦っている最中ずっと考えていたけれど、その条件がようやくそろった感じだ。
「あれ、今から殺されるっていうのに本当におとなしいね」
セフィーゼはつまらなそうに言った。
「泣きわめくとか、命乞いとかすると思ったのに。――まあとにかく、恨みっこなしだよ」
「そっちもね」
「………………?」
セフィーゼは一瞬訝しげな顔をしたが、僕が強がっているだけだと思ったのだろう、すぐに元の笑顔に戻った。
「じゃあね、バイバイユウト君。今度こそ100%の魔力でいくね」
虹色の風がびゅんびゅんと渦を巻く。
少しでもあれに触れたら即座に体はざっくり切り裂かれてしまう。
にもかかわらず、僕は極めて冷静な気持ちでいられた。
むしろこの時を待っていたのだから。
こいセフィーゼ。
そのまま魔法を撃ってみろ。




