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(5)

「セフィーゼ!」


 ヘクターが振り向いて叫んだ。声は明らかに焦っている。

 ヘクターはセフィーゼが攻撃される前に僕を殺し、それからアリスを捕えるつもりだったのだ。 

 だが、アリスの予想以上の戦いぶりで作戦が狂ってしまった。

 結果としてセフィーゼの守りはがら空きになり、これはまずいと思ったのだろう、ヘクターはセフィーゼを助けるためアリスから離れようとした。


「行かせるか!」

 すかさずアリスが鋭く切りかかり、ヘクターの行く手を阻む。

「お前の相手は、この私だ!」


「くっ!」


 ヘクターは止む無くアリスの剣を受ける。

 その間にも僕はセフィーゼにぐんぐん近づいていった。


「ちょ、ちょっとヤバいよ!」

 セフィーゼは慌てた様子で呪文を唱えた。


『エアブレード!』


 虹色の風が今度は僕の方に飛んできた。

 が、避けるまでもない。

 さっきのアリスと同じように、僕を守る『Mガード』の壁もまた効力が持続しているからだ。


 あと少し! 


 僕は腰のショートソードに手をかけた。

 殺しはしない。

 ただ脅すだけ、脅して降参させるだけだ。


 ショートソードを抜いた僕を見て、セフィーゼの顔に恐怖の色が浮かぶ。

 おそらく今までの戦闘で、こんな危険な目に合うことはなかったのだろう。

 それだけ彼女の魔法は強力だったのだ。


 だが、今回はそうはいかない。

 この勝負、もらった!


 僕が勝利を確信したその時――


 体が突然、動かなくなった。

 四肢に透明の何かが絡みついて、まったく前に進めないのだ。


「キャハハ」

 セフィーゼが大笑いして、僕に近づいてくる。

「あーあ。見事に引っかかっちゃったね『エアウイップ』の罠に」


 なんだこれ!

 もがけばもがくほど、体が見えない何かに締め付けられてしまう。


「暴れても無駄だよ。ユウトくん魔法には詳しそうだけど、さすがにこの『エアウイップ』は知らなかったでしょ?」


 セフィーゼの言う通りだ。

 こんな魔法、見たことも聞いたことない。


「ま、わたしが最近発明した魔法だから当たり前なんだけど」


 セフィーゼが得意げに言ったので、僕は思わず怒鳴ってしまった。


「はぁ!? ふざけんな! そんなの知ってるわけないだろ!」


「やだなあ、そうカッカしないで」

 セフィーゼは饒舌(じょうぜつ)に話し続ける。

「悔しいんだろうけど、ユウト君は今、わたしが魔法で作った風の対流の中にがっちり捕らえられているんだから。絶対逃げられないよ」


 もがけばもがくほどえ肌にまとわりつく気持ち悪い感覚――これも風の一種なのか。

 が、それが魔法である以上、解除できないこともないはずだ。 


「ユウト君のかたーいバリアも、さすがにこの『エアウイップ』は防げなかったね。でも、まさかこんなに上手くいくとは思わなかったなあ。もしかしてわたしってかなり頭いい? それとも単にあなたがおバカさんだったのかしら?」


「………………」


 無性に腹が立つ。

 セフィーゼにではなく、こんな単純な罠に引っかかってしまった自分に。


「あ、黙っちゃった。それじゃあお喋りはここまでにしよっか。でね、色々考えたんだけど……やっぱりユウトくんにはここで死んでもらうね」

 セフィーゼが可愛い顔であっさり言った。

「わたし、もしかしたらユウト君のこと嫌いじゃないかもしれない。でもこのまま生かしておいたらイーザにとって後々厄介なことになると思うの。だからごめんね!」


 白々しい。

 ごめんだなんて、さらさら思っていないだろうに……。


「せめて苦しまないように一息で殺してあげる」

 セフィーゼはそう言って、右手の指先に渦巻き状の風を発生させた。

「本当は剣で刺し殺せば簡単なんだろうけど、実はわたし、刃物で人を傷つけるのは苦手なの。生々しいし返り血を浴びるし」


「……決闘(デュエル)前はアリス王女と剣で戦うって言ったくせに」


「エヘヘ、それはついその場の雰囲気でね。まあどうでもいいじゃない」

 セフィーゼは舌をちろっと出した。

「――さてと、ちょうどユウト君のバリアの効力も弱まってきたころかな? それでえ、こんなに近くから、しかも100%の力でわたしが『エアブレード』をユウト君に向けて撃ったらどうなると思う?」


「たぶん『(マジック)ガード』では防げないよ」


「あらま、認めちゃうんだ。意外だねえ」

 と、セフィーゼは小首をかしげた。

「完全にあきらめちゃったのかな? じゃ、実際試してみよっか?」      


 彼女はもうデュエルに勝った気でいるのだ。

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