(2)
しかし――
「やったぞ、ユウト!!」
アリスが声を上げる。
こわごわ目を開けると、二人ともまったくの無傷。
『Mガード』の魔法の壁が、見事に『エアブレード』の虹色の風を防いだのだ。
「ユウトがいれば、あんな魔法恐れるに足らず、だな」
アリスがほほ笑む。
どうやら魔法を唱えた当の本人より、アリスの方が『Mガード』の力を信じてくれたらしい。
一方、セフィーゼは、
「ウソでしょ!? なんでよ! どうしてわたしの風が消えちゃったの!」
と、キャーキャーわめき立てている。
あの慌てっぷり。
ご自慢の『エアブレード』が効かなかったなんて、たぶん初めての経験なのだろう。
これは幸先いい。
セフィーゼの出鼻をうまく挫くことができた。
「い、今のは50%の力なんだからね! 今度は80%よ!」
セフィーゼはすぐに気を取り直し、もう一度指先で虹色の風を作った。
今度は魔力のためが長い。
そして――
『エアブレード――!!』
虹色の風がより大きく波を打ちながら、こっち向かって押し寄せてきた。
セフィーゼの宣言通り、かなり威力を増している。
「いっけーーーー!!!」
セフィーゼが絶叫する。
だが『Mガード』は、その強力な魔法攻撃でさえものともしなかった。
虹色の風は魔法の防御壁にぶつかった途端、一瞬で霧散してしまったのだ。
セフィーゼの叫び声だけが残響となって、からっぽの空に虚しくひびく。
「やだ……どうして……? こんなのあり得ないよ」
二度も魔法を防がれセフィーゼは、半ば茫然自失状態だ。
そんなセフィーゼに、険しい顔をしたヘクターが声をかける。
「セフィーゼ、このままでは何度魔法を唱えても無駄ですよ。『エアブレード』はあのユウトという兵士の作り出した魔法の壁には通用しません」
「ゆ、許せない!」
プライドを痛く傷つけられ、セフィーゼは顔を真っ赤にして叫んだ。
「ヘクター、まずはあいつを殺っちゃって!! あなたの刀でユウトの息の根を止めるのよ」
「承知!」
ヘクターはうなずき、青竜偃月刀を構え、標的を僕に定めて走り出した。
速い!
身のこなしが軽い!
さっき『スキャン』の魔法で調べた通り、ヘクターはスピードとパワー、両方を兼ね備えた高レベルの戦士なのだ。
この攻撃、僕の能力では到底避け切れない。
つまり正面で受けるしかない。
そう判断した僕は、続けて魔法を唱えた。
『ガード!!』
同時に、ヘクターが目の前に飛び込んできた。
偃月刀を大きく振り上げる。
袈裟掛けに僕を叩き切ろうというのだ。
だがすでにその時、『ガード』の効果は発動していた。
「カキンッ」
鋭い金属音がして、偃月刀は強く跳ね返された。
ヘクターは続けて二撃、三撃と打ち下ろすが、『ガード』の壁はその攻撃をまったく寄せ付けない。
ヘクターはいったん攻めるのを諦め、数メートル後ろに跳んだ。
そして素早く体勢を立て直す。
「私の刀を防ぐとはなかなかの魔法ですね――ならば、これはどうです?」
ヘクターの体が一瞬、青く光った。
あっ、まずい!
そう思った瞬間――ヘクターがすべての体重を右肩一点に集め、前にかがんだ。
それはただのショルダータックルではなかった。
ヘクターは超高速移動、いや、ほとんどテレポーテーションのような速さでこっちに突っ込んできたのだ。
ガンッ、という強い衝撃を感じ、あおむけの状態で体が宙に泳いだ。
突然青い空が視界に入る。
ああ、これが『クイック』――スピードを倍増させるスキルか。
そのまま、僕は背中から思い切り地面に叩き付けられ、激しい痛みが全身を駆け巡る。
『ガード』の魔法が破られたわけではない。
凄まじいタックルに押され、防御壁ごと体を吹っ飛ばされたのだ。
甘かった。
やはりここは、すべてがプログラムされたゲームの世界とは違う。
予想外のことがいくらでも起こり得るのだ。
「ユウト!」
アリスが剣を構えたまま、僕の方を見て叫ぶ。
「……大丈夫です。アリス様」
痛みは残っていたが、手足は普通に動く。
『ガード』が効いていたおかげで、ヘクターのタックルの威力を大幅に削いでくれたらしい。
もし生身のままだったら、全身がバラバラになっていたかもしれない。
だがアリスは激怒した。
「貴様!!」
僕をかばいながら、ヘクターに向かって叫ぶ。
それから神剣ルーディスを構え、ヘクターに一気に切りかかろうとした。




