(18)
「ユウト!」
そこでアリスが僕を呼んだ。
ついに出番が回ってきたのだ。
そうだ、今は迷っている場合ではない。
ここまで来たらやるしかない!
「いま行きます!」
僕は兵士の群れを抜け、急いでアリスの元へ向かった。
「ユウト、すまない」
緊張が緩んだのか、アリスの顔に一瞬ほっとした表情が浮かぶ。
無理もない。
この圧倒的に不利な状況下で、セフィーゼとヘクターという難敵を相手に雄弁し、彼らを言い負かし、ついに二対二の勝負に持ち込んだのだ。
アリスは戦わずして、すでに敵に一泡も二泡も吹かせたと言っていい。
「これぐらい譲歩しないとあの男が決闘なぞ認めないだろうからな」
アリスが僕に小声で耳打ちした。
「わかってます」
僕はアリスの瞳を見て答えた。
「私の魔法でアリス様を絶対に守ってみせます」
「……頼もしいな」
アリスの頬がちょっぴり赤くなる。
あ……。
ついキザなセリフをはいてしまった。
そう思って急に恥ずかしくなったが、でもまあ、セフィーゼからアリスを必ず守りぬくという決意だけは本物だ。
しかし僕を見て、セフィーゼが「キャハハ」といきなり笑い出した。
「え! 助っ人ってあんた? 冗談でしょう!? なあーにが『守って見せますよ』」
「……どういう意味だよ、それ?」
やっぱりこの娘、とってもムカつく……!
僕は思わずセフィーゼをにらんだ。
「別にぃ。ただ王女のお付きの魔術師なんだからもっとこう大魔法使い、みたいなすっごい人を呼んだと思ったの。でも実際出てきたのはフツーの兵士――どころかひょろガキなんだもん。おかしいじゃん」
あのなぁ、自分はどうなんだ自分は!
どう見ても僕より年下、しかもさっきまで泣きべそかいていたくせに!
そう思うと怒りも湧いてくるが、僕はここはグッと我慢し、沈黙を貫くことにした。
戦う前にセフィーゼが気を緩ませてくれれば、それはそれで好都合だ。
「あんたみたいなのを助けに呼ぶなんて、王女様、追い詰められて頭がおかしくなってしまったのかしら? それともロードラントってよっぽど人材不足なの?」
「ふん……」
アリスがニヤリと笑う。
「さっき言った通り、この“普通の兵士”は魔法が使えるぞ」
「魔法が使えればそれでいい、ってわけじゃないでしょ」
セフィーゼは僕を見て尋ねた。
「――ねえあんた名前は?」
「……ユウト、ですけど」
「ユウトくん、悪いことは言わないからとっとどっかに逃げなよ。今回は見逃してあげるからさあ」
「お断りします。僕はアリス様を守るためにここにいるのですから」
「アハハ、白馬に乗った王子さま気取り? 無理しちゃって。まあ、その勇気だけは買ってあげる。でもね――」
セィーゼの顔が急に真剣になった。目に殺気が宿る。
「戦いが始まったら、容赦はしないよ」
ここまで明確な殺意を向けられたのは、たぶん生まれて始めてだ。
だが案外、恐怖も何も感じない。
自分でもなぜかよく分からないけれど、もしかしたら、『アリスを守る』という大切な目的があるせいなのかもしれない。
「ねえ、ヘクター」
セフィーゼがヘクターの方を向いて言った。
「やっぱ、助けはいらない。わたし一人で十分よ」
「いけません!」
「えーどうして?」
「この少年――私にも読めませんが、何か強い力を持っているような気がします」
「どこがよ。大した魔法を使えるようにも見えなないし。さっきの爺さんへの評価といい、今日のヘクターおかしいんじゃない?」
「とにかく油断は禁物です」
「ヘクターはそればっかり。でもまあ、いっか。一応警告はしたもんね。ヘクターと私、最強コンビの力を見せてあげる」
くそっ――今に見ていろ。
僕は心の中でつぶやいた。
要するにセフィーゼは自分の魔力を過信しすぎなのだ。
その自信の源を徹底的に打ちのめしてやれば、それだけで彼女はもろく崩れ去るに違いない。




