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異世界最弱だけど最強のヒーラー  作者: 波崎コウ
第六章 風の少女
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(16)

「パパ、だと?」

 アリスは眉をひそめた。


「そうよ、パパはあんたたちに殺されたのよ!! 何があっても絶対に許さないんだから!!」


「それは一体どういうことだ?」


「へえー。あくまでシラを切るんだ」

 セフィーゼの目が怒りに燃える。

「じゃあ教えてあげる。いい? 私のパパ――前の族長ウォルフはね、この間ロードラントの王様に呼び出されしぶしぶ王都に出かけて行ったの。しばらくして帰ってきたけど、その時はもう様子がおかしかった。そして言ったわ、『ロードラントはイーザを滅ぼすつもりだ』と」


「バカな! そんな話、私は聞いたこともないぞ」


「それだけじゃない。パパはその後すぐに倒れて、三日三晩苦しみ抜いて死んだわ。――ねえ、パパの最後の言葉なんだったと思う? 『ロードラント王に毒を盛られた』だって。わたしは別れの挨拶すらまともにできなかった」


「ロードラント王が――私の父が族長の毒殺を謀っただと?」


「そうよ! パパはそれまでは病気の一つしたことなかったのよ! それがいきなり死んでしまったんだから!」


 セフィーゼの目から涙がボロボロこぼれ落ちた。

 なにやら陰謀めいた、そして不可解な話だ。

 だが、もしセフィーゼの話がすべて真実だとしたら、イーザが反乱を起こした理由も納得がいく。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 

 セフィーゼの話を聞き、アリスは神妙な顔をして黙りこんでしまった。

 もしかして、何か思い当たる節でもあるのだろうか?


「黙ってないで、なんとか言いなさいよ!」

 セフィーゼがヒステリックに叫んだ。


「……残念ながら、私はその件についてはまったくの不知だ」

 アリスがようやく口を開いた。

「お前みたいな子供がイーザの族長を継ぐのはおかしいと思っていたが、そんないきさつあったのか」


「私は子供じゃない!! 偉大な族長ウォルフの娘、そして誰よりも強い風の魔法使いよ。さあ、覚悟なさい。わたしは今、あなたをここで殺す!」


 ああ――まずい!

 イーザの族長である父親(ウォルフ)の最期を思い出したことで、消えかかっていたセフィーゼの復讐心に再び火が付いてしまったようだ。


 しかし、アリスは冷静だった。

 逆に、セフィーゼの気勢をそぐように言い返す。


「やれやれ、そういうところがお子様だと言うのだ」  


「はあ?」


「つまるところ、お前の目的はロードラント王家に対する復讐ということだろう?」


「その通りよ! 子が親の仇を討つ。それのどこが悪いの?」


「悪くはない、が――個人的な感情で部族全体の運命を左右してしまうのは、部族の(おさ)としては失格だな。私も同じような間違いをおかしたからよくわかる」


「誤解しないでいただきたい」

 ヘクターが再び口を挟んだ。

「ウォルフ族長の死を弔うためにロードラントに戦いを挑む。それはセフィーゼ一人が決めたことではない。我がイーザ一族の統一された意思なのです」


「やられたら必ずやり返す。それがわたしたちの鉄の(おきて)なんだから!」

 セフィーゼが涙をぬぐいながら叫ぶ。


「まったく――」

 アリスがふっと肩の力を抜いた。

「すべてが見当違いでいちいち反論するのも腹立たしいな。それに何を言ってもお前は私のことなど信じないだろうし、一度抜いた剣を今さら収めるわけにもいかないだろうしな」


「フフン、どうやら言い訳するのもあきらめたようね!」


「分かった分かった! 何とでも言え。――で、セフィーゼ、結局お前はどうしたいのだ? 私を殺せば本当にそれで気が済むのか?」


 だが意外にも、セフィーゼは首を横に振った。


「あなたの言い分にも一理ある――それは認めるわ。無抵抗の人間を殺すのは卑怯だし、仇討ちとしても不完全」


「ほう、ではどうする?」


「アリス王女、剣を拾いなさい!」

 セフィーゼはアリスをキッとにらんで言った。

「あなたは王様の代わりなんでしょう? ということはパパの(かたき)と同じということ。今から正々堂々と戦ってあなたを殺してあげる」


「一騎打ち、か」


「ええ、そうよ。どう? 受ける? ロードラントの王女様」 


「面白い。受けて立とう。私もちょうど見ているばかりではつまらんと思っていたところだ」


 アリスは足元に転がっている神剣ルーディスを拾い上げた。

 途端に、剣が不思議な輝きを放つ。



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