(11)
「セフィーゼ、待て!!」
アリスの凛とした声が戦場に響く。
「今から私がそちらに行く」
ピリピリと張りつめた空気の中、アリスは仲間の血で赤く染まった大地を踏みしめながら、ゆっくりと前へ進んでいった。
そんなアリスを見て、セフィーゼが目を丸くする。
「え!? あなた――本当に本物のアリス王女?」
「王女様みずから捕虜になってくれるってこと?」
「そうだ。私は何も抵抗しない。だからいったんその魔法を止めろ」
「わかった、いいよ。でも変なことしたらタダじゃおかないから」
そう言ってセフィーゼは両手を下した。
同時に、上空で渦巻いていた虹の竜巻がパッと消える。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
これで『ミストラル』の脅威はひとまずなくなった。
さらにアリスに呼ばれるまでの間、多少時間ができた。
僕はすぐさま大勢の兵士たちの間に紛れ込み、身を低くして腰の皮袋からスマホを取り出した。
これまでの激しい戦いで壊れてはいやしないかと、恐る恐る電源を入れる。
しばらくすると、パッと画面が光った。
よかった。ちゃんと起動した。
僕は続いて兵士と兵士の間からこっそり顔を出し、セフィーゼに照準を合わせ『スキャン』を唱えた。
わざわざこんなことをするのは、魔法を使っていることを敵に感づかれたくないからだ。
が、しかし――スマホの画面には何も表示されない。
どうやら一回目は失敗したらしい。
セフィーゼとの距離がかなり離れているせいか、それとも疲れて魔力が落ちているせいか――?
そのどちらかだろう。
それでも諦めず、より神経を集中させもう一度『スキャン』を唱えた。
一瞬、セフィーゼの体がオレンジ色に光る。
今度は成功だ。
スマホに目を落とすと、画面一杯にセフィーゼのステータスが表示されていた。
ネーム:セフィーゼ=ダナン=ル=イーザ
クラス:ソーサラー
H P:253/260
M P:6565/7300
力 :100
知 力:1205
速 さ:1350
守 備:230
運 :251
白魔法:0
黒魔法:4315
スキル:風魔法+++
状 態:正常
弱 点:なし
高い魔力に加え風魔法のスキル――
やっぱり相当な強敵だ。
続けてヘクターに対し『スキャン』を唱える。
ネーム:ヘクター=モンテバル=ル=イーザ
クラス:ジェネラル
H P:3125/3200
M P:0/0
力 :2150
知 力:320
速 さ:1550
守 備:1320
運 :55
白魔法:0
黒魔法:0
スキル:クイック+
状 態:正常
弱 点:なし
こちらも全体的に数値は高い。それに力だけでなくスピードも速い。
そこが要注意だ。
そして最後に、アリスにも『スキャン』をかけてみた。
ネーム:アリス=マリー=ヴァランティーヌ=ド=クルーエル=ロードラント
クラス:プリンセス
H P:751/770
M P:0/0
力 :966
知 力:3620
速 さ:954
守 備:385
運 :1860
白魔法:0
黒魔法:0
スキル:カリスマ++
状 態:正常
弱 点:ゴースト アンデッド
アリスのフルネームがこんなに長いとは知らなかった。
……いや、そんなことはどうでもいい。
生まれつきの才能なのか、それとも帝王教育のたまものか、アリスのステータス値もかなりのものだ。
が、残念ながらセフィーゼ、ヘクター両名には遠く及ばない。
魔法が使えないのも痛い。
つまり、もしこのまま一騎打ちにでもなれば、僕がアリスをサポートして戦うしかないということだ。
この数値なら攻撃補助魔法によってバフ、つまりドーピングをすれば、あるいは何とかなる――かもしれない。




