(10)
「黙れ! 黙れ!」
しかし当然、セフィーゼは激怒してわめいた。
顔を真っ赤にして、地面を何度も蹴っとばしている。
「それがあんたたちの答えね! いいわ、下っ端だけでも助けてやろう思ったけど、まとめて吹き飛ばしてあげる!」
「セフィーゼ、少し落ち着きなさい」
と、ヘクターは諌めたが、セフィーゼは耳を貸さない。
「ヘクターは黙ってて。これは団長命令よ!」
セフィーゼはそう言うと、両手を天に掲げ声を張り上げ叫んだ。
『――風よ、イーザの精霊よ!
私にさらなる力を――――!!』
すると、セフィーゼの手のひらの上に小さな虹色のつむじ風が発生し、さらに、
『はぁぁぁぁぁぁーーー!!』
セフィーゼの小柄な体が緑色のまばゆいオーラに包まれ、魔力が一気に高まった。
そして風はさらなる風を呼び――
つむじ風は、セフィーゼの魔力とともに「ゴォーゴォー」と不気味な音を立てながら成長し、ついには巨大な虹の竜巻と化してしまった。
さかんにヤジを飛ばしていた兵士たちも、その竜巻の迫力に圧倒され、すっかり黙り込んでしまう。
「『ミストラル』の魔法でみんなぐちゃぐちゃになって死ぬか、それともその前に窒息して死ぬか――」
魔法を完成させたセフィーゼの顔に、悪魔の笑みが浮かぶ。
「本当に楽しみ♡」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『ミストラル』
巨大な虹色の竜巻で敵全体に大ダメージを与える風の上位魔法。
あの風の渦に巻き込まれたら、それこそひとたまりもないだろう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「これは厄介なことになったな」
様子を見ていたアリスが舌打ちをして、それから僕に言った。
「ユウト、私は先に一人で出て行きセフィーゼと話すから、呼んだら来てくれ。最初から二人で行って、奴らに下手に警戒されたくないからな」
僕は黙ってうなずいた。
今は、アリスのやろうとしていることを信じるしかない。




