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異世界最弱だけど最強のヒーラー  作者: 波崎コウ
第二章 異世界転移
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(5)

 すると、そこへまた、栗毛の馬に乗った別の少女が現れた。

 その子は全身鎧姿のアリスとは違い、上半身に鋼の胸当てを付けただけの軽装備だ。


「あらアリス様、それはあんまりですわ」

 少女はそう言って、アリスとレーモンの間に割って入る。

 

 ――ええ!! あ、あれは!!


 その顔を見て、僕は仰天した。


 理奈じゃないか――!!


 さらりとした長い茶色の髪に大きくぱっちりとした目、うっすらと日焼けした肌。 

 いかにも元気一杯な感じで、可愛さでもアリスに決して負けていないのだが、どこからどう見ても、幼なじみの七瀬(ななせ)理奈(りな)本人なのだ。


 どういうことだ!

 なぜこの世界に理奈がいる?


 僕の頭はますます混乱した。

 異世界に来て、ようやく理奈への想いを断ち切れると思ったのに。

 これではわざわざ転移した意味がないではないか!


「ああ、リナ。いいところに来てくれた」

 アリスは困った顔をして懇願する。


「レーモンになんとか言ってくれ。あれをするなこれをするなと、うるさくてかなわん」 


 ――リナ、だと?

 名前まで同じ!!


 僕は我慢できず、ヘッドセットに向かって呼びかけた。


「ちょっと、清家(せいけ)さん!」


「なに? そんな大きな声出して。まわりに気づかれるわよ」

 セリカはすぐに返答してきた。


「あの、理奈が――幼なじみの七瀬理奈があそこにいるんだけど」


「へえ、そうなの」

 セリカは別に驚くわけでもない。


「ねえ、これってどういうこと? ここは現実の日本とはまったくの別の世界なんじゃないの?」


「そうよ。でもそちらとこちらの世界は平行して存在するってことも説明したよね?」


「うん、確かに……」


「つまり、現実世界と同一の人物がそっちの世界にいても不思議ではないの。もっともあなたと違って、彼女は現実世界の記憶があるわけでも、両方の世界を行き来できるわけでもないけどね」


「???」


「ま、あまり深く考えないで。なんならそっちの世界の彼女とうまくやり直せばいいじゃない。じゃね」

 と言って、セリカはまた一方的に通信を切った。


 視線を戻すと、三人はまだ揉めている。


「アリス様。レーモン叔父さまはアリスさまのことを心配しているのですわ」

 と、リナがアリスをたしなめる。

「レーモン叔父様はローラント随一の騎士であることはアリス様もご存じでしょう。戦場でこれほど頼りになる方はおりませんわ」


「なんだ、リナもレーモンの味方なのか」

 アリスはぷっと頬をふくらました。

「叔父様も――」


 今度は、リナはレーモンに向かって言った。


「兜ぐらいよいではありませんか。敵はまだ遠いですし、なにしろこの暑さ、アリス様のおっしゃることにも一理ありますわ」


 リナの言うとおり、陽が高くなるにつれ気温が急に上がっていた。

 歩いているだけで額から自然と汗がにじみ出てくる。

 それでも僕たち兵士が身に付けているチェーンメイルは、鎖の間から空気が抜けるからまだマシだ。

 アリスが身に付けているプレートメイルでは、中が蒸れてしょうがないだろう。


 だが、レーモンはリナをギロリとにらみ、

「リナ、お前は黙っていなさい!」

 と、叱りつけた。


「はい……」

 リナはしゅんとして、口を閉じる。


「アリス様、周囲をご覧ください」

 レーモンがアリスに言った。

「アリス様を見習ってしまったのか、兜を脱いでしまった兵がたくさんおります」


「よいよい。好きにさせておけ」


「なりません。これは軍規の乱れにつながる、由々しき事態ですぞ」


「叔父様、待ってください」

 リナが懲りずにまた口をはさむ。

「戦いが始まる前に暑さで疲れ切ってしまっては、元も子もないのでは?」


「そうだ、リナの言う通りだ。兵はみな緊張を強いられ疲れ始めている。多少のことは大目に見てやれ」

 と、加勢をしてもらったアリスが続ける。


 レーモンはため息をつき、

「アリス様がそこまで言われるのでは仕方ありませぬな。しかしそのうちに、必ずかぶっていただきます」

 と言って、馬を後方に引きアリスから離れた。


「助かったよ、リナ」

 アリスがやれやれといった感じに笑う。


「でもアリス様――アリス様はこれが初めての戦いなのですから、いざという時には、レーモン叔父様の言うことに耳を傾けなければなりませんわ。出陣の前、国王さまがおっしゃられたように」


「ああ、わかっている」

 アリスはリナの忠告に素直にうなずいた。


 二人は本当に親しそうだ。

 身分の違いは気にしない、同年代の仲の良い友達といった感じなのだろう。


 と、その時――


「おい、おめー」


「え?」


 後ろからいきなり誰かに話しかけられた。

    

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