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異世界最弱だけど最強のヒーラー  作者: 波崎コウ
第六章 風の少女
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(7)

「……仕方あるまい」

 レーモンは渋い口調で言った。

「ではさらにもう一段譲歩してやろう。いまだし条件に加え、今後、毎年ロードラントに納める租税の賦課(ふか)額を恒久(こうきゅう)的に半減させる。それでどうだ」 


「ふーん。血の代償を金で払う、ってこと?」

 セフィーゼは冷たく返した。

「やっぱり話にならないわ」


「なんだと?」


「話にならないって言ってんだよ!!」


 セフィーゼがそこでついに怒りを爆発させた。

 十代前半の少女とは思えない激しさだ。


「セフィーゼの言うとおりです。そもそも何を根拠に、毎年我々があなた方に高い税金を払わなくてはいけないのですか? 我々はあなた方の従属物ではない。独立した一個の民族なのですよ」

 と、ヘクターが畳み掛ける。


「目には目を、歯には歯を――命には命で償ってもらうから」

 セフィーゼが叫んだ。


「命、だと?」


「そう命、命よ! この世で最も貴重な――何ものにも代えがたい人の命よ」


「しかし貴様らは、これまでの戦いでさんざんロードラント人を殺してきたではないか。それでもまだ十分ではないと言うのか!」


「そうよ! そんなじゃ全然足りない。いい? よーく聞いて。あんたたちが助かるための条件はただ一つだけだから」

 セフィーゼが絶叫する。

「アリス!! アリス王女をこちらに渡しなさい。そうすれば他の兵士の命だけは助けてあげる」


「貴様!!! 言わせておけば!!」


 耐え続けてきたレーモンの堪忍袋の緒がそこで切れた。

 激怒して剣を抜き、正眼に構えたのだ。


 それに対し、セフィーゼは右手を上げ人差し指を天にかかげた。


『――風よ!』


 セフィーゼの指の先に、虹色の風がくるくると渦を巻いた。

 まるで小さな竜巻のようだ。


「さあ、ほんの少しの間だけ回答を待ってあげる。早く決断なさい」


 セフィーゼとレーモンの間に激しい火花が散る。

 今にも一触即発な雰囲気だ。


「やはりレーモンに交渉を任せたのは誤りだったな」 

 と、それを見ていたアリスが苦笑する。


「でも、このままでは二人の間に戦いが始まってしまいます」

 リナはオロオロして、ついアリスにすがりつく。


「ユウト――」

 アリスが僕の方を向き、言った。

「すまないが、お前の力を今一度貸してほしい」


「え!?」


「私はどうしても皆を救いたい。全員無事にロードラントに帰してやりたいのだ。が、今のやり取りを見て少々気が変わった。タダで奴らの捕虜になってやるのも面白くないしな」


「と言うと……?」


「あのセフィーゼとかいう小娘に一泡吹かせてやりたくなったのだ。――しかしそれにはユウト、お前の力がどうしても必要だ。また危険な目に会わせてしまうが……」


「もちろん、できることなら何でもします」


「そうか」

 アリスはうなずくと、いきなり身に付けていた銀の鎧を外し始めた。


 どういう仕組みなのかはわからないが、鎧は手・足・胴次々と、ワンタッチであっという間に脱げてしまった。

 この世界の甲冑は、どうやら現実世界の物より優れているようだ。


「ああ、これで楽になった。やはり鎧は窮屈でかなわん」


 今やアリスが身に付けているのは、薄い鋼の胸当てと、中世風のブラウスにズボンのみ。

 まさかこの軽装で、セフィーゼ、ヘクター両名と戦うというのか?


「ユウト、なんだその心配そうな顔は。私は身軽なのが好きなんだ」

 アリスはその金糸(きんし)のように美しい髪を、後ろでキュッと一つに束ねながら、僕の顔を見てニヤリとした。

「あの風の魔法の前では、鎧などクソの役にも立たないからな」 


「アリス様……」

 

 それはそうかもしれないけれど、クソの役って……。


 王女にふさわしくないお下品な言葉。レーモンが聞いていたらさぞかし怒っただろう。

 でも、僕は思わず笑ってしまった。



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