(6)
「よろしい」
それから一分ぐらい経ったのち、レーモンが重い口を開いた。
「貴公らが直ちに軍を引き武装を解除すれば、この度のロードラント王国・ファリア共和国に対する反逆の罪、並びロードラント王国の二個軍団を壊滅させた罪は一切不問に付そう。さらにイーザにはこれまで通りの自治権を認めよう。それでどうだ」
しかし――
「それだけですか?」
ヘクターが冷笑する。
「ホント、つまらない冗談!」
セフィーゼも鼻で笑う。
ダメだ。二人ともまったくレーモンを相手にしない。
勝利を目前にした彼らが、その程度の条件で素直に撤退するわけないのだ。
だいたいレーモンの上から目線の高圧的な態度もまずい。
「それだけ、だと? これがどんなに寛大な処置なのか、貴様らには分からないのか!」
レーモンが声を荒げた。
「ほら、早くも本性をあらわした。ロードラントの人ってほんといっつもこう。自分たちがこの世で一番偉いと思ってる」
セフィーゼがムッとして言い返す。
だがレーモンはそれを無視し、一方的に話を続けた。
「よいか? 我々の後ろにはロードラント王国二十万の軍団が控えているのだぞ。今、貴公らが一時的に勝利を収めたとしても、戦いを継続すればいずれ必ず負ける。イーザ族はロードラントによって影も形もなくこの世から抹殺されるのだ」
「今度は脅し? サイテーね」
と、セフィーゼが軽蔑の眼差しをレーモンに向ける。
「レーモン公爵、どうも穏やかではないですね」
ヘクターがやれやれ、と首を振った。
「話を戻しましょう。元よりなぜ我々がロードラントに戦いを挑んだか、あなたはその理由をまったく理解していない。いいですか? 我々イーザの民は長年辺境の蛮族と蔑まされ、虐げられ、搾取され続けてきました。少しでも抗議すれば、即、武力による弾圧です。今回はいわばそのお返しですよ」
「むむ……」
「それにもし私たちがあなたが示した条件を飲んでも、今、イーザ族が置かれている苦しい状況はまったく変わらないでしょう。それでは死んでいった多くの仲間たちに顔向けすることができません。結論として、そんなバカげた条件を受け入れることは不可能です。絶対に無理ですね」
ヘクターの発言を聞き、レーモンが大きく息を吐いた。
怒りを抑え必死に落ち着こうとしているのが、こちらにも伝わってくる。




