(4)
「どけ、レーモン」
アリスは追いすがるレーモンを振り払う。
が、レーモンはアリスの前に回り込み、通せんぼした。
「お待ちくださいアリス様。ここはこのレーモンが責任をもって奴らと交渉してまいります。ですからどうぞ、私に全権を委任たまわり下さい」
「お前が――? 戦争専門のお前に、交渉ごとなどできるのか?」
「お任せ下さい。どんなことがあっても穏便に対処し、我々に有利な和平条件を引き出してみせます」
「これ以上我が軍に犠牲を出すことはまかりならんぞ」
「無論です。アリス様はどうかここでご覧なさっていて下さい」
レーモンはそう言うと、アリスを置いて前に出て行こうとした。
「叔父様、大丈夫ですか?」
と、リナが心配そうにレーモンに声をかける。
「リナよ、案ずるな。私はこんなところではくたばらんわ」
レーモンは珍しく笑顔を作り、姪であるリナに余裕を見せた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ねえー今度は誰が戦うの? こっちはたった二人で相手してあげてんだよ?」
と、セフィーゼが叫ぶ。
「ハイオーク倒して包囲網を突破しちゃうんだから、もう少し骨があると思ったんだけどなあ。なんか飽きてきたから、そろそろ終わりにしよっかなあ」
「待たれい!」
レーモンがセフィーゼの方にズカズカと歩いていく。
「えー!? 待って待って! こんなお爺さんが次の相手なの?」
セフィーゼが目を丸くして言った。
「さすがにちょっと殺しちゃうのは後ろめたいよお」
「セフィーゼ、慢心してはなりません。この翁、相当な強者です」
穏やかだったヘクターの顔が、急に厳しく変わった。
「そうなの? うーん、あんまり強そうには見えないけど……」
レーモンは二人の十メートルほど手前で立ち止った。
完全にセフィーゼの『エアブレード』の射程範囲内だが、レーモンはそれをまったく気にていない。
さすがに度胸は据わっている。




