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異世界最弱だけど最強のヒーラー  作者: 波崎コウ
第六章 風の少女
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(2)

 アリスの言う通り、地面に散らばる死体の先に一人の少女が立っていた。


 年齢はアリスやリナよりだいぶ幼い。せいぜい十二、三歳だろうか。

 短めに切ったボーイッシュな茶髪に、エメラルド色の瞳。

 フリルの服に皮の胸当てを身に付け、武器は何も持っていない。

 戦場とはおよそ場違いな、おとぎ話の妖精に似た、とび切り可愛い女の子だ。


 そしてその横にはもう一人、背が高く長髪の精悍(せいかん)な顔つきの男がいた。

 東洋風のずいぶん立派な鎧を装備しているから、かなり高い位なのだろう。 

 男は、三日月の刃がついた薙刀のような武器――いわゆる青竜偃月刀せいりゅうえんげつとうを手にし、こちらを睨み付けている。


 後方に控えているイーザの騎兵隊は別として、眼の前の敵はたった二人――

 これだけ多くのロードラント兵が、この少女と男によって殺されたというのか?

 

「アハハ、ほーんと、情けない」

 少女は無邪気に笑った。

「これがあの噂に名高いロードラントの竜騎士なわけ? 口ほどにもない連中ね。さ、次は誰?」


「貴様――!! なめるな!!」


 その言葉に激昂(げきこう)した一人の竜騎士が剣を抜き、一直線に馬を走らせた。

 馬上から少女を一刀両断にしようというのだ。


 しかし少女は、

「懲りないんだねえ」

 と言って、手で空を切って叫んだ。


『エアブレード!!』


 次の瞬間、少女の手の先から虹色に光る風が発生し、風は「ヒュンッ」という鼓膜をつん裂くような音を立て竜騎士の方へ飛んでいく。


 あまりの速さに、一瞬何が起ったか理解できなかった。

 竜騎士は無傷のまま、少女に突っ込んでいくかのように見えたのだ。


 ところが次の瞬間――


 竜騎士は馬もろとも上下真っ二つ、きれいに割れてしまった。

 そして、その分断された肉体は「ドサリ」と音を立て、地面にくずれ落ちた。


 間違いない。

 あれは風の攻撃魔法『エアブレード』だ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



『エアブレード』


 鋭い風の刃が敵一体を切り裂き、大ダメージをあたえる。

 ゲームのマニュアル的に説明すればそんな感じだ。

 だが実際に見ると、とんでもなく残虐な魔法だということわかった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「あーあ。お馬さんだけは助けたかったんだけど、ちょっと当たっちゃったか」


 竜騎士と馬の死体を見下ろし、女の子は肩をすくめた。 

 まったく悪びれてない、ケロッとした様子だ


 それにしても年端もない女の子が、こうも簡単に人を殺せるのか?

 かわいい外見にこの残忍さ――

 あまりにアンバランスすぎて、余計に狂って見える。


「今のは少し危なかったですね、セフィーゼ。どうか気を付けてください」

 と、横に控えていた男が、少女に声をかけた。


「大丈夫よお、ヘクター。こいつらてんで弱いんだから。こんなことならもっと早く戦いを挑むべきだったよね」


「セフィーゼ、油断は禁物ですよ。今やあなたはイーザを率いるイーザの族長。自分の身の安全を常に優先して考えてください」


「わかった、わかったから」

 と、セフィーゼが口を尖らせる。


「ところでさ、前から思ってたんだけど、その族長っての止めてくれない? なんかダサい」


「ダサい、ですか……ではなんと呼べばいいのですか?」

 ヘクターと呼ばれた男が苦笑して尋ねた。


「そうね」

 セフィーゼは少し考えてから言った。

「団長――騎士団長がいいかな。だって、そっちのロードラントの人たち、弱いくせに騎士なんでしょ? じゃあそれよりずっと強い私たちだって騎士を名乗ってもいいと思うの。馬の扱いは得意なんだし」


「わかりました、団長。ではみんなに後でそう伝えておきましょう」

 と、ヘクターはうなずいた。


 このセフィーゼという少女が族長……。

 つまり、彼女がイーザ軍を率いて反乱を起こし、ロードラント軍と戦っているということなのか? 



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