(1)
この章から残酷な表現が増えます。苦手な方はご注意ください。
圧倒的な黒い騎兵軍団を目の前にして言葉を失う僕とアリス。
すると突然、前方から子供っぽい叫び声が聞こえてきた。
「やった、また当たったぁぁ――!!」
それは、殺伐とした戦場に似つかわしくない、やけに元気で明るい少女の声だった。
続いて誰かの悲鳴が上がり、ロードラント軍の兵士たちの間にどよめきが広がった。
――どうしてこんな声が?
何が起こっているのか少しでも早く知りたい。
が、大勢の兵士たちが邪魔になって、馬上から見ても様子がわからなかった。
第一、アリスが来たのになぜ誰も道を開けないのか?
どうやらみんな目の前の出来事に気を取られ、アリスがそこにいること気づかないらしい。
業を煮やしたのか、アリスは何も言わずいきなり馬を飛び降りた。
そばにいた竜騎士が「お待ちください」と止めるが、アリスはかまわず黒山の兵士をかき分け先に進む。
僕とリナは一瞬顔を見合わせ、それから急いで二人で馬を降り、アリスの後を追った。
兵士たちの合間をぬって、何とかみんなの前面に出る。
すると――そこには異様な光景が広がっていた。
死体、死体、死体、死体。
無残に切断されたバラバラの死体と、血の池地獄。
アリス護衛軍とイーザの騎兵軍団がにらみ合うだいたい1キロの間に、体を切断された竜騎士と兵士たちの死体が散乱しているのだ。
そのあまりの凄惨さに、人の血や肉に耐性が付いてきた僕でさえ吐き気を覚えた。
リナはただ絶句し、悲鳴すら上げられないようだ。
アリスは?
こんな光景を目の当たりして、アリスの精神は大丈夫なのか?
しかし意外にも、アリスは表情一つ変えず前を見据えていた。
女騎士ティルファの傷を見て、ひどく感情的になった時の彼女とはまるで別人のようだ。
「あの少女の仕業か」
と、アリスがつぶやく。




