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(13)

 違う、見ているだけではなかった。

 すぐそこに倒れているハイオークは、実際に、僕が魔法で殺したのだ。

 だが殺したその瞬間は何も感じなかった。

 むしろ「やった!」と思った。


 ――なんてことだ!!


 この異世界にこのまま留まり、アリスたちと戦いを続ければ、いつか僕も、ハイオークどころか、生身の人間でさえ平気で殺せるようになってしまうかもしれない。


「どうしたユウト、顔色が悪いぞ」

 心配そうにアリスが僕の顔を覗き込む。


「たぶんユウトさんは魔法を使いすぎたのでしょう」

 と、リナがアリスに言う。


「そうなのか? ユウト」


「……はい、まあそんなところです」


 無理に笑って答える。

 この人たちに、僕がいま思ったようなことを言っても、絶対に理解できないだろう。

 ここは平和な現実世界とは違う。

 殺し殺されるのが当たり前の、異世界の戦場なのだから。


「でも大丈夫です」

 と、僕はアリスに言った。

「まだまだやれます」


 これ以上考えるのは止めよう。

 でないと頭がおかしくなってしまう。


「無理を言ってすまないな、ユウト」

 アリスが申し訳なさそうな顔をして言った。


「アリス様が謝られる必要などありません。私は一人でも多くの人を治療したいのです」


 人の命を助けるため魔法を使う――

 とりあえず、そのことだけは悩む必要がない。

 それだけが今の自分にとって、唯一の救いだ。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 僕が負傷者の治療をあらかた終えたところで、マティアスがアリスに言った。


「さあいつまでもここに留まっているわけにもまいりません。アリス様、お急ぎください」


「その通りだな。よし、行こう!」

 アリスがうなずくと、ひらりと白馬にまたがり空に向かって剣を掲げた。

「みんなあと一歩だ。ここを突破し全員生きて帰るぞ」


「オーッ」

 兵士たちが一斉に叫ぶ。


「ユウトさん、私たちも行きましょう。もう一度後ろに乗って下さい」

 リナが馬上から手を伸ばす。

「でも……」


 僕はエリックを見た。

 リナのことは心配だが、正直今は、気心の知れたエリックと一緒に行動したい気持ちが強い。

 アリスとリナから少し離れて頭を冷やしたいのだ。


 だが、エリックは僕の肩を押して、

「ユウト、行けよ。お前の魔法でアリス様とリナ様をお守りしろ」

 と、言った。


「ゆくぞ、リナ、ユウト」

 アリスがせかす。


 これではアリスたちに同行せざるを得ない。

 僕は諦めて、渋々リナの馬に乗った。


「マティアスは竜騎士をまとめ、しんがりを務めよ」

 アリスがマティアスに命令する。


 マティアスは「はっ」と返事をした。

 確かに彼らに任せれば、後方は安全だろう。


「全軍進め! 一気に駆け抜けるぞ」


 アリスの号令と共に、ロードラント軍は再び進撃を開始した。

 このまま包囲を突破し街道に出ればコノート城は近いらしい。


 あと一歩、あと一歩でみんな助かる――


 つまるところ、ハイオークを殺したことによって僕たちは「流れ」に乗れたのだ。

 その事実だけは肯定するしかない。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 レーモンの部隊が残ったコボルト兵を駆逐してくれたおかげで、僕たちはすぐに護衛軍の先頭集団に追いつくことができた。

 だが、おかしなことに、兵士たちの動きは完全にそこで止まっていた。

 ある地点から、一歩も先に動けないようなのだ。


 包囲を抜ける最後の最後で手間取っているのか?

 そうも思ったが、それにしては周囲にコボルト兵の姿は見当たらない。

 あらたなハイオークが現れたわけでもなさそうだ。


「おい、どうした? なぜ前に進まない?」


 アリスが叫ぶ。

 が、すぐに黙ってしまった。

 一目見ただけで、その理由がすぐに分かったからだ。


 これから進むべき道の先――


 なだらかな丘の上に、黒い騎兵の一団がいた。

 数はおそらく二千騎以上。

 彼らがとてつもなく精強な軍団であることは、見ただけでわかる。


「あの者たちは?」

 アリスが訊く。


「……イーザの本隊でしょう」

 側にいた竜騎士の一人が答えた。


 あれがロードラントの二万の軍団を壊滅させ、二人の将軍を敗死させたイーザの騎兵軍団なのか――


 希望が一瞬で絶望に変わる。



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