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(12)

「ユウト、謙遜(けんそん)するんじゃねえ」

 リナに支えられ、立ち上がったエリックが言った。

「お前がいなきゃみんな死んでたぜ」


「アリス様、それには私も同意します」 

 マティアスがうなずく。

「この少年がここまで魔法を使いこなせるとは、思いも寄りませんでした」 


 ……こんなに褒められたこと、今まで生きてきて始めてのことだ。

 慣れていないせいか、嬉しい――というよりむしろ照れくさい。


「マティアス、エリック――!」

 二人の無事な様子を見て、アリスが言葉をつまらせた。

「ハイオークにやられたようにも見えたが――何より良かった」


「ユウトの魔法で救われました。しかし……部下が何人も死にました」


 そう言うマティアスの声は、かすかに震えていた。

 この人、見かけは冷酷そうだけど、実はそうでないのかもしれない。


「彼らの勇気ある戦いぶり、私がしかと見届けた。無事国に戻ったら、彼らをロードラントの英雄とし(まつ)ることを誓おう」


 アリスがマティアスの肩に手を置いて言った。

 竜騎士には元々あまり好感を持っていないらしいアリスも、さすがに今回ばかりは違うようだ。 


 続いてアリスはリナの両手を取り、

「リナもすまなかったな。危険な役目を負わせて」

 と言った。


「いいえ、アリス様」

 アリスの言葉に、リナが首を振る。

「私の命はアリス様のためにあるのです。いちいちお気にかけてくださる必要などありません」


「その考え方は止めろ」

 と、アリスの顔が曇った。

「繰り返しそう言ってきたではないか」


「はい……」


「身分など関係ない。私とお前は親友であり、また姉妹のようなものなのだ。そのことを常に忘れないでくれ」


「もったいないお言葉、ありがとうございます」

 リナはなぜかうつむき加減に、暗い声で答えた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 結局、ハイオークとの戦いで生き残った竜騎士は四十名中二十二名。

 勝つには勝ったが、精鋭であるはずの竜騎士が半数近くやられてしまったわけだ。

 ハイオークの強さを考えれば、仕方のないことかもしれないが……。


 ――いやいや、ちょっと待て!

 “仕方ないかもしれない”って、僕はなんて冷たい発想を!!


 そういえば、最初はコボルト兵が死ぬところを見るだけでも嫌な気分がした。

 なのに今は、地面に転がっている竜騎士の死体を見てもほとんどショックを感じないのだ。


 それってつまり、人の死に対し極めて鈍感になっているわけで、実はもの凄く怖いことではないのか?


「アリス様!」

 一足先を行っていたレーモンが振り返り叫ぶ。

「我々がまだ敵の包囲網の中にいることをお忘れなきよう。私が先行して露払いをしときますゆえ、一刻も早くこの場から脱出を」


「待て、負傷者の治療が先だ!」

 アリスがそう叫び返し、こちらを向いた。

「ユウト、戦いが終わったばかりですまないが、他の竜騎士の治療も頼んでよいか?」


「……はい、もちろんです」


 が、僕はうわの空で返事をした。




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