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 だが、この状況で『ガード』の魔法を止め『リカバー』を使えば、二人ともハイオークに殴り殺さてしまう。

 結局、僕たちが助かるには、目の前で暴れるハイオークを倒さなければならないのだ。


 ――じゃあ、いったいどうすればいい?


 ………… 

 ……

 …


 いくら考えても、何も思い浮かばない。

 このままだと、もう――


 エリック、ごめん。

「必ず助ける」なんて簡単に言ったけど、やっぱりダメそうだ。

 僕の魔力が尽きれば、そこで終わりになってしまう。


 ただ一つ心残りなのは――リナのことだ。

 手遅れになる前に、せめて一言「逃げろ!」と言いたかった。


 だが今の僕は、ハイオークのパンチを防ぐのに精いっぱいで、リナの方を振り返る余裕すらない。

 さっき目に刻んだリナの姿――

 馬を颯爽(さっそう)と乗りこなし、ボウガンを撃つ彼女の姿だけが脳裏に浮かぶ。


 ――ん?


 リナとボウガン、そして矢。

 そういえば、リナは射撃が得意だったっけ……。


 いや――

 

 待てよ!

 そうだ、その手があった!! 


 天啓(てんけい)の如く、とでも言うのだろうか?

 リナのおかげで、僕はある魔法のことをパッと思い出した。

 が、“その手”を使うにしても、いったんは『ガード』を唱えるのを止めなければならない。


 ――よし、ここは逆に!


 僕は『ガード』の力を高めるため、魔力の出力をさらに上げた。

 それに比例するかのように脈拍が速くなり、激しい耳鳴りが始まった。

 体温も急激に上がった気がする。

 まるで全身の血が沸騰するような感じだ。


 今の自分完全にオーバーヒート状態。

 だが、たとえ体が壊れてしまっても、ここで魔法を中断するわけにはいかない。

 みんなが生きて帰れるかどうか、すべて僕の肩にかかっているのだから。 


 次の瞬間「パンッ」と、今までとは少し違った音がした。

 より強化された『ガード』の魔法の壁が、ハイオークの拳を強く跳ね返した、その衝撃音だ。


 相当痛かったのか、ハイオークは手首をふるわせ、恐ろしい顔で僕を見下ろしながら「グルルル」と吠えた。

 

 ところが、どんなに怒り狂っても、今のハイオークの力では『ガード』の壁は破れない。

 ようやくそれを理解したのだろう。

 ハイオークは攻撃を中断し、何か武器はないかと周囲を探し始めた。


 ――これでこちらの計算通りだ!


 ハイオークはすぐに、竜騎士の長槍が少し離れた場所に落ちているのを見つけた。

 そして、その長槍を取ろうと体の向きを変え、足を引きずりながら歩いていった。

 もしあれで強く突き刺されたら、たぶん僕の『ガード』の魔法は破られてしまうだろう。

 けれどそんなことはどうでもよかった。その前に決着をつけるのだから。

 僕は『ガード』の魔力を使うのを()め、リナに向かって大声で叫んだ。


「リナ様、ボウガンを構えてハイオークを狙ってください!!」


 いきなりそんなことを言われて、リナは戸惑ったと思う。

 クロスボウの矢がハイオークに効くわけない。それは誰もが分かり切っていることだからだ。

 が、リナが現実世界と同じ素直な性格ならば、きっと指示に従ってくれる――

 僕はそう信じていた。


 馬上のリナは一瞬困惑した様子だったが、果たしてすぐに、

「は、はい!!!」

 と返事をしてクロスボウを構え、ハイオークに狙いを定めた。


 その時、ハイオークはちょうど地面に落ちていた長槍を拾い上げところだった。

 人語が分かるのだから、当然僕が叫んだ内容は分かっているはず。

 だが、まったく無視している。

 今さらクロスボウの矢がどこに当たっても、ダメージはほとんどないと思っているのだ。 


 ハイオークは長槍を手にしてこちらに向き直ると、緑の血で染まった顔に不気味な笑いを浮かべ、

「……コンドコソコロス」

 と、つぶやきながら、一歩一歩こちらに向かって歩き出した。


 チャンスは今しかない!

 そう判断した僕は、リナに向かって叫んだ。


「リナ様、撃ってください!!」


「えいっ!」

 リナはクロスボウをハイオーク目がけて二発連射した。


 一見無意味な攻撃。

 ハイオークの体にどんな場所に命中しても、矢は跳ね返されてしまうだろう。


 しかし―― 


『エイム!』


 僕はあらん限りの魔力を込め、そう唱えた。

 魔法の効果を受けて、二本の矢がほんの一瞬光る。    



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