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異世界最弱だけど最強のヒーラー  作者: 波崎コウ
第三十一章 サバト -淫魔の夜ー
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(9)

「どうだわかったか?」

 と、アリスが冷やかに言った。

「ヒルダ、もうお前に味方する者は誰もいないのだ。許しを請うなら今しかないぞ」


「味方がいない――ということは、よもや! 城攻めの方も……」


「察しがよいな、その通りだ。お前が知らぬ間に王都から援軍が到着してすでにデュロワ城は解放された。いまだ戦いは続いているがイーザ軍もお前のご自慢のモンスター軍団もすでに敗走しつつある。もはや我々ロードラントの勝利は揺るぎない」


 アリスは、援軍が到着し、お城に残されたみんなの無事を確保してから出立したのか。

 僕なんかが言うのもなんだけれど、最初出会ったころの無鉄砲ぶりに比べたら、本当にずいぶん成長したものだ。


「キー!! まったくどいつもこいつも役立たたずだことっ!!」


 そこでついにヒルダの怒りが爆裂した。

 ギリギリ歯を食いしばり、ヒステリックに叫ぶ。


「セルジュ――お前、よくもおめおめ生きていられるものだね! 後できついきついお仕置きをしてあげるから覚悟しときな!」


「しゅ、しゅいません……」


 いまヒルダが窮地に陥っているのは、別にセルジュ一人の責任じゃないだろうに……。

 が、あの生意気なセルジュが、今は塩をかけられたナメクジ並みにしおれている。

 どうやらセルジュも、ヒルダにはまったく適わないらしい。

 

 しかし、二人のやりとりを聞いていたアリスは、眉をひそめて言った。


「後で、だと? ヒルダよ。貴様はこの状況でまだ後があると思っているのか?」

  

「ええアリス様、もちろんでございます」

 

 と、余裕の笑みを見せるヒルダ。

 そのふてぶてしい態度に、アリスは不快そうに言った。


「ヒルダ、それは往生際が悪いというものだ。さあ、いい加減降伏しろ。そして私の二人の友人を返せ――いや、リナは友人でユウトは恋人というべきだったか。相思相愛のな」


「こ、こ、こ、こ、恋人っ――!?」


 アリスの発言に僕も驚いたけれど、それに輪をかけて仰天している様子なのがヒルダだった。

 ショックのあまり目を見開き、口から泡を飛ばして叫んだ。


「――こ、このうらなりクソザコちん○がぁ王女の恋人で相思相愛だとォ――!? ありえない! 絶対にありえない!!」


「ヒルダ、お前になぜそんなこと断定されなければならん。私にとってユウトは今もっとも頼りになる大切な人だ」


「いえいえいアリス様、何を血迷って……。それにさっきアリス様は処女だと自らおっしゃったじゃありませんか! それが恋人などと!!」


「……別に恋人がいても処女の場合はあろう。ああ、でもすでにキスはしたがな」


 恋人がいる=非処女、という処女厨特有の思い込みのヒルダの突っ込みに、つい真面目に答えるアリス。

 だが僕はそれを聞いて焦りまくった。


 ――うわっ、やばい!

 あの夜、寝ているアリスの口にそっとキスをしていたこと、しっかりバレてたのか――!!


 しかしアリスは特段に怒っている様子はない。

 むしろ余計に激怒しているのは、部外者のヒルダだった。


「キ、キ、キ、キス――? ありえないありえないキスだけでもありえない――!!」


 怒りで顔を真っ赤にしたヒルダは、息ができなくなるぐらいの強い力で、僕の首の根をつかんで叫んだ。


「ユウト!! このブサイク面で王女をたぶらかしてキスするなど図々しいにもほどがあるわ!! この身の程知らずが!! 本来なら今すぐにでも殺してやりたいが――ん、ちょっと待てよ……?」


 一瞬、ヒルダが手を緩め、訝しげな表情を浮かべて言った。


「もしもアリス様が本当にお前と好きあっている恋人――だとしたらなんでお前はわざわざこんな危険を冒してこの非処女の偽王女を助けにきた? わたしはてっきりお前がこの女を想っているからこそ、ここまでノコノコやって来たと思っていたが……。しかもこの女の処女を奪った相手はお前ではないのだろう? まさかお前に二股をかける甲斐性もあるまいし、これはいったいどういうことだ?」


「……お、お前なんかに僕の気持ちが……わ、わかってたまるか」

 

 ヒルダの手で潰され気味の喉から、僕は辛うじて声を絞り出した。

 僕のリナに対する長年にわたる複雑な想いなど、この女には理解できるはずがない。

 が、ヒルダももちろん納得しない。


「なに格好つけてるんだ、この間抜けなオタンコナスめ! わたしに言わせれば他人の色女(いろ)を救うために自分の命をかけるなどまったく意味不明、愚の骨頂すぎる! ……ええい、もうそんなことどうでもよいわ! いずれにせよ貴重な人質であるお前を今殺すわけにはいかないからな。その代わりして――別の地獄をたっぷり味あわせてやる!!」


 ヒルダはそう叫ぶと、左腕を僕の首に回し固定してから、余った右手に短い杖を持った。

 そして、十メートルほど先の何もない平らな地面に向かって杖を振り上げた。


「なあユウトよ、わたしがこの数日の間こんな辺鄙(へんぴ)な森のはずれで何もせず大人しく待っていたと思うか? それは違うぞ。貴様に魔力を吸い取られたおかげで時間がかかってしまったが、ここで自分の持てるすべての魔力を高め練り上げていてたのだ。そしてついにこいつの創造に成功した。見よ! わたしの真の力を! 魔力の集大成を!!」


 ヒルダは杖を地面に向かって振り降ろす。

 すると、杖の先から怪しい紫色の雷のような怪光線が発射され、光は一瞬で地表に吸い込まれていった。

 それから数秒後――

 突如地表がガタガタ揺れ、地下深くから地鳴りが聞こえてきた。

 またアンデッドでも呼び出したのか、と思ったのだが、今回はそうではなかった。

 もっとずっと大規模な仕掛けだ。


「いでよ!! パンタグリュエル――!!」


 ヒルダの号令が辺りに轟く。


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