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異世界最弱だけど最強のヒーラー  作者: 波崎コウ
第三十一章 サバト -淫魔の夜ー
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(8)

「そうでしょうともそうでしょうとも!」

 

 アリスの堂々たる処女宣言を聞いて、ヒルダは嬉々として叫んだ。


「このヒルダは最初からわかっておりました。そこに転がっているどこぞの馬の骨とも知らないふしだらな女ではあるまいし、あなた様のような類まれなる神々しい姫君がその(よわい)で男を知っているはずがございません!!」


 ……まったく、ついさっきまではリナのことを本物の王女と思っていたくせに白々しいったらない。

 とはいえ、アリスが処女と判明したいま、ヒルダはますます――たとえどんな犠牲を払ってでも、アリスを我がものにしようとするだろう。


「それしてもわざわざ王女様がこのサバトに自らおこし参加下さるとはこのヒルダ、光栄の至り、恐悦至極に存じます」


「……ヒルダよ、つまらん戯言(たわごと)をほざくのも大概にしろ。このような淫祠(いんし)邪教の祭事、見ているだけで目が汚れるわ。さあ、とっと私の友人たちを返してもらおう。さもなければ貴様はこのアリスが成敗してくれる」


 思ったとおりだった。

 アリスはいったん別れて城に残ったものの、僕たちのことを心配し放っておけず、後を追って来てくれたのだ。

 おかげでひとまずは命拾いしたが、しかしまあ、アリスは相変わらず無鉄砲で無茶なことをする。

 見たところ一人で来たようだけれど、ここにたどり着くまで敵に襲われたらいったいどうするつもりだったのか。

 それと、肝心のデュロワ城は今どうなっているのだろう?

 籠城する兵士たちを束ねるアリスが、城の守りをほっぽりだすようなことするとは思えないが――


「まあまあ、なんとお勇ましいこと」

 と、ヒルダは怪しく微笑んだ。

「その勇気と胆力。さすがはアリス様、ロードラントの第一王位継承者に相応しいお方であらせられますわ。しかしながらたったお一人でここまで来られるとはあまりに軽率無謀。こちらにとってはまさに飛んで火にいる夏の虫と言ったところでしょうか」


「ふん。ヒルダよ、残念だったな。以前の私だったら一人で勝手に暴走したかもしれないが、私もいろいろ経験して――特にユウトと出会って成長することができた。要は皆の上に立つ者としてこのような危険な御幸(みゆき)を単独でするほど愚かではないということだ」


 アリスはヒルダを軽くあしらうと、手を振って合図をした。

 すると後方から、王の騎士団(キングスナイツ)のクロードと、その妹兼恋人のティルファが現れた。

 さらに完全武装した精鋭のロードラント兵が二十名ほど、そのそばに付き従っているのが見えた。

 これは意外。

 アリスは今回は一時の感情に流されずしっかり考えて行動している。

 ということは――?


「おやまあ、ずいぶんとものものしいこと。とはいえたったそれだけの雑兵でこの偉大な魔女ヒルダを捕えようとするなどは……。アリス様もわたしのことを少々見くびられておいでのようですわね」


「さあ、それはどうだろうな? ――ああ、そういえば、途中で捕えておいたコイツのことを忘れていたぞ」


 アリスは女王然とした冷たい笑みを浮かべると、縄でぐるぐる巻きになってがっくりうなだれる少年を突き出した。

 セルジュだ。


「この小賢しい獣使い(ビーストテイマー)の少年はお前の仕込みだろう? だがな、そこにいる私の部下が兇暴なモンスターたちをものともせず見事にやってくれたぞ」


「へへへ、ども! ミュゼットで~す」


 と、ここでミュゼットがかわいくポーズを決めて登場した。

 よかった、どうやら無傷っぽい。

 よくもまあ、あのモンスターだらけの修羅場を生きてくぐり抜けたものだ。


「いっくら獰猛なモンスターでもしょせんは脳筋な烏合の衆、ボクの上級魔法で楽勝楽勝! ――って、あ、あれっ!」


 と、そこでミュゼットは僕の様子に気づき、血相を変えた。


「ユウト! あーあ、しっかり捕まっちゃってるてるじゃん。待ってて! いま助けてあげるから」


「おっと、そうはいかないよ!!」

 

 ヒルダが僕をもう一度グイッと首根っこを怪力で掴み、ヘビのような目でミュゼットをにらみ付けて叫んだ。


「そこのガキ――見てくれは少女のなりしているが実は男だろう?」


「おお! よくわかったねぇ」

 

 ミュゼットが目を丸くして驚いている。

 一方、ヒルダは男に対する嫌悪感を露わにして言った。

 

「まったく、クソオスガキのくせに紛らわしい格好しやがって……。いずれにせよそこから一歩も動くなよ。さもないとお前の大事なユウトの命はここで尽きるぞ」


「ちぇっ、しょうがないなぁ」


 ミュゼットは舌打ちをして、一歩後ろに引いた。

 だが、それと入れ替わるようにアリスが前に出て、よく通る声でヒルダに向かって言った。


「ヒルダよ、無駄な抵抗はやめろ。今さら人質を取って時間稼ぎをしていったい何になる? ちなみにお前のもう一人の手下の女剣士(シャノン)はマティアスとの戦いで傷を負って逃亡したから助けには来ないぞ」


 マティアスとシャノンの因縁の再戦は、マティアスが制したのか。

 しかし――


「……ユウトよすまぬ。あの女に深手は負わしたが、またしても取逃がしてしまった……」


 と、そこによろよろとマティアスが現れたのだった。

 だがマティアス自身も全身が血だらけで、どう見ても傷を負ってる。

 おそらくマティアスとシャノン、双方力が伯仲し、またしても相打ちだったのだろう。

 でも、とにかく無事で幸いだった。

 傷も魔法で完治できるレベルだ。


 さあ これで役者はそろった――と言いたいとこだが、囮になったセフィーゼと、彼女を追っていった狂戦士ヘクターの姿だけがこの場に見えなかった。

 その後二人はどうなったのかは、非常に心配だ。


 しかしアリスは、セフィーゼのことには触れず、いよいよ最後の絞めに入ったのだった。

 

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