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異世界最弱だけど最強のヒーラー  作者: 波崎コウ
第二十五章 決死行
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(7)

 前回ミュゼットがハイオークと戦った時も、彼女は『炎の壁(ファイアウォール)』で結界を張った。

 だがあの時は、ミュゼットが自分だけの力でハイオークを倒さんがためにしたことで、今はもちろん理由が違う。

 彼女は僕たちを一刻も早くヒルダの元へ向かわせるため、周囲にいるモンスターたちをすべて一人で引き受けようというのだ。

 さすがエリート竜騎士ミュゼット。

 セルジュに激昂しつつも、ちゃんと冷静に状況を見据えて行動している。

 

「おいおいおい、なんだこの炎! なにすんだよてめぇ!」

 

 突然の炎の壁(ファイアウォール)の出現に、セルジュがわめき立てた。

 その機に乗じて、ミュゼットが振り向き僕に向かって叫んだ。 


「ユウト、ほら、早く先に行って!」

 

「すまない、ミュゼット――行こう、セフィーゼ!」


「だ、だけど……」


「いいからここはミュゼットに任せるんだ。さあ!」


 僕はためらうセフィーゼの手を引っ張って促す。

 すると、セフィーゼがようやく承諾する素振りを見せたので、僕はロムレスに襲われ気を失ったままの幼女を背におぶった。

 この子が足手まといにならないと言ったら嘘になるが、かといってこのままここに放っておくわけにもいかないからだ。


「おい待て! そうはいくかよ!」


 先行しようとする僕たちに向かって、セルジュが怒鳴った。

 

「ディアボロスにベヒモス、あと他の連中もとっとと出て来い!


 セルジュがまたもや口笛を吹くと、森の影に潜んでいた、見るからに恐ろしげなモンスターがぞろぞろ現れた。

 さっき気配で感じた通りの、今までに出会ったことのないハイクラスの敵集団だ。


「おいお前たち、あいつらを足止めするんだ! ――いや殺していい! やっちまえ!!」 


 モンスターたちの群れが、セルジュの命令に従い一斉に突撃してきたた。 

 しかしそこで、ミュゼットの炎の壁が真価を発揮したのだ。


「おっと!! そうはいくかって、それはこっちのセリフだよ」

 

 ミュゼットが軽口を叩きながらも、炎の壁を自在に操り、モンスターの行く手を巧みに阻む。

 と、同時に、炎の向きを変え、うまく道を作り僕たちを森の奥へと誘導してくれた。


「ユウト、今だよ!」


「ありがとう、ミュゼット!」


 その場から去ろうとする僕たちに対し、モンスターは群れを成して背後から襲いかかる。

 が、奴らがどんなに強くても、魔法のプロ中のプロであるミュゼットの炎の壁(ファイアウォール)を破ることは、そう簡単にはできない。

 特に知能の低い獣系のモンスターはただ猪突猛進するだけで、火傷を負うだけだ。

 結局、僕とセフィーゼはモンスターたちに邪魔されることなく、余裕をもって空き地を走り抜け、再び森の奥に続く道へ入ることができた。


「くそー!! ちくしょー!!」

 

 セルジュのわめき声が聞こえてくる。

 が、それも燃え上がる炎の勢いにかき消され、すぐに消えた。

 おそらく炎の壁(ファイアウォール)の向こうでは、ミュゼットvsセルジュ&モンスターたちとの戦いがすぐにでも始るはずだ。


 でも大丈夫。

 さっきセフィーゼに言った通り、ミュゼットなら一人で十分戦える――


 と、僕はもちろんそう信じているが、多勢に無勢であるのは事実で、その点若干不安はあった。

 いずれにせよ、今は少しで早くヒルダを打倒しリナを救いだして、すべての決着を付けるのだ。

 それが結果的に、マティアスやミュゼットを救うことになる。


 が、できればその前に、できれば背中の子をどこか安全な場所に保護しておきたいのだが――



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 しかし、この森の中にそんな安全な所などあるはずもなかった。

 やむを得ず幼女をおぶったまましばらく進むと、ヒルダの妖気がいよいよ強くなってきて、いやがうえにも緊迫感が増してきた。

 その時――


「ねえユウト、ちょっと止まって」


 突然セフィーゼが足を止めたので、僕もつられて走るのをやめた。


「どうしたの? どこかに敵がいる?」


「違うの。その子、目が覚めたみたい」


 セフィーゼの言った通りだった。

 僕が顔を後ろに向けると、背中の幼女が目をぱちぱちさせて言った。


「ここは……どこ? ママは……?」


「それは……」


 なんと説明してよいかわからず、言葉に詰まると、セフィーゼがお姉さんっぽく、優しく幼女に語りかけた。


「安心して。私たちはあなたの味方。ママのところにあなたを送ってってあげるから。ねえ、あなたお名前はなんて言うの?」


「エル……エルスぺス。……みんなはエルって呼ぶの」


「エルね。いい名前。それでエルのお家はどっちに行けばいいかわかる?」


 その幼女――エルは首を振った。

 まあ、いきなりこんな森の中で目が覚めても、自分の家がどこにあるなんてたとえ大人でもわかりっこない。

「困ったわね……」と、言ってセフィーゼがため息をつく。

 結局、今はこのエルという女の子を一緒に連れていくしかなさそうだ。


 しかしそれにしても、ヒルダと対決する前にマティスが抜けミュゼット抜け、ここまでパーティーが弱体化してしまうとは――

 これではまったくヒルダの思惑通りの展開で、すでに彼女の掘った陥穽(かんせい)に落ちかかっているようなものではないか。


 いったいどうしようか、この状態でどうやってヒルダと戦おうかと思案していると――

 セフィーゼが悲鳴に近い声で叫んだ。


「ヘクター!!!」


 セルジュに続いて僕たちの前に現れたのは、イーザの将軍にしてセフィーゼの忠実な臣従、青龍偃月刀を構えたヘクターだった。


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