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異世界最弱だけど最強のヒーラー  作者: 波崎コウ
第二十五章 決死行
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(3)

 次の瞬間――

 100頭を超えるフェンリルの大群は、獰猛な声で一斉に吠えると、群れを成して僕たち飛びかかってきた。

 が、前面に立つマティアスにミュゼットそしてセフィーゼは、一歩も引かず、平然と構えを取った。


「邪魔だ、この畜生どもっ!」


 マティアスが叫び、真っ先に襲いかかってきたフェンリルを一刀のもとに切り捨てた。

 続けて大剣を左右に振り回し、二頭、三頭といともたやすく薙ぎ払う。

 フェンリルたちもなんとか間合いを詰めて、鋭い爪でえぐったり、尖った牙で咬んだりしようとするが、その前にマティアスの大剣ですべて叩き落とされてしまう。

 もちろんミュゼットとセフィーゼも負けてはいない。

 得意の魔法が、フェンリルに対しまさに快刀乱麻の力を発揮する。


『ファイアーショット――!!』


 ミュゼットが炎球(ファイアボール)でフェンリルを次々燃やし尽くせば、セフィーゼも、


『エアブレード――!!』


 と、風の(カッター)でフェンリルの群れをまとめてずたずたに切り裂いていく。

 三人とも思わず目を見張るような圧倒的な強さ。

 しかし、それでいて個人プレーに走ったりはせず、互いに連携して効率よく敵を倒していく。


 彼らのまったく危なげない戦いぶりを見て、これでは本当に僕の回復魔法の出る幕はさそうだな、と思いつつ待機していると、一つ不思議なことに気が付いた。

 それは倒されたフェンリルたちの死骸が、一瞬で青い炎に包み込まれて、まるで幽霊が消えるかのように、跡形もなく消滅してしまうことだ。

 後には血の一滴すら残っていない。


「こいつらはおそらくあの魔女(ヒルダ)が魔法で作り出した本来は実態のない生物だろう」

 マティアスが剣を振るいながら叫んだ。

「さしずめ幻獣と言ったところか」


 なるほど、フェンリルが発光していたのはヒルダの魔力のせいか。

 たが、そうだとすると――

 

「つまりヒルダがフェンリルを指し向けたってことは、私たちが近くまで来ていることは完全にバレてるってことね」

 と、セフィーゼが言った。

「でもヒルダもまさかこの程度の魔物で私たちを倒せるとは思っていないでしょう」


「要するに時間稼ぎってことかぁ」

 事態は深刻なのにミュゼットの口調はあくまで明るい。

「じゃあとにかくコイツらをちゃっちゃっとやっつけちゃおうよ! 雑魚だよ雑魚!」


 確かにフェンリルはそんなに強いレベルの敵ではない。

 しかし、とにかく数が多かった。

 そのため、結局すべてのフェンリルを倒しきるまでに小一時間ほど浪費してしまった。


「やれやれ、思ったより手こずったな」

 と、マティアスが軽く息をついて、背中の鞘に大剣を収めながら言った。

「だが休む暇はあるまい。――ユウト、魔女はどこだ!」


 僕は一応スマホを取り出しちらりと見た。

 なぜ一応なのかといえば、実はもうマップを確認するまでもなく、ヒルダの居場所はわかっていたからだ。


「あの紫に光る森です。間違いなくあそこに見える森の奥にヒルダはいます」


 僕は洞窟を出た先、西の方角にあるこんもりとした森を指さした。

 光る森――とはおかしな表現だが、上空には異世界の青い満月から怪しげな紫色の光が降り注ぎ、実際にそう見えるのだ。 

 その光景は禍々しいというか“魔”そのもの。

 どうやらヒルダは、もう身を隠すつもりはないらしい。

 いったい何の目的かは知らないが、森の中に居座って、己の魔力を極限まで高めているのだ。     


「うーん、なかなかヤバそうだね、あれは……」

 

 と、つぶやくミュゼットの顔から笑顔が消える。

 そういえばミュゼットは、このパーティーの中で唯一ヒルダに直接会っていないから、彼女の恐ろしさをまだ肌で感じてはいない。

 とはいえ、ここからでも、ヒルダの強力な魔力を感じ取ったのだろう。

 ミュゼットの今までの元気キャラが、急になりをひそめてしまった。


「しかしアリス様の命により我々は行かなくてはならない」

 マティアスが眉をきゅっと吊り上げて言った。

「どうしたミュゼット? 怖気づいたか?」


「んなわけないじゃん」

 と、ミュゼットがニヤリとして答えた。

「いよいよ本気出せるかな、と思ってさ」


「なら急ぎましょう。もうこれ以上時間をロスできないんでしょう、ユウト?」


 セフィーゼが僕に訊いてきたので、うなずいてみんなに向かって言った。


「ああ、どうせヒルダにバテてるなら、ここからは一気に走って正面突破しよう!」


 僕たち4人は一致団結し、不気味に光る森に飛び込んだ。

 そして強い魔力を感じる方向へ、森の中の道を走って進む。


「待って!」

 しばらくして、すばしっこく先頭を走っていたミュゼットが叫んだ。

「ボクたち何かに囲まれてる」


 するとその途端、辺りの地面が何か所も盛り上がり、そこからにょきにょき手が生えてきた。

 これは――ヒルダお得意のアンデッド召喚に違いない。

 だが、この敵なら僕だって戦える。

 たちまち無数のアンデッドに取り囲まれたが、恐怖はまったくなかった。


「さあ、さっさと片付けよう!」


 僕は率先して前に立ち、『リカバー』の魔法でアンデッドを片っ端から浄化した。

 他の三人も、この程度の相手はまったく敵ではない。

 圧巻の攻撃力で、アンデッドたちを次々倒していく。


 行く手を遮るアンデッドをすべて倒し終わるのに、今度は三十分とかからなかっただろう。

 しかし、それでも多少の時間を使ったことに違いはない。

 僕たちは焦る気持ちを抑えながら、さらに森の奥に進んだ。


 すると突然ふっと空気が変わった。

 

 美しい黒髪の女剣士――シャノンが、一人目の前に立ちはだかっているからだ。 


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