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異世界最弱だけど最強のヒーラー  作者: 波崎コウ
第二十四章 生の悦びを知りやがって
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(8)

 マティアスの登場は、ミュゼットにとっても予想外だったらしい。

 訝しげな顔をしてマティアスに訊く。


「マティアスじゃん! どうしてこんなところに来たの?」


「待てミュゼット。その質問に答える前に一つ言わせてもらおう」

 と、マティスは軽く咳払して、思いもよらないこと言った。

「つい立ち聞きしてしまったが、お前がユウトのことを本当に好きなのはわかった。が、だからといってそういうことは相手に無理やり、しかも好きか嫌いかの二択で迫るものではないぞ。いいか、恋とか愛というものは時には時間が必要なのだ」


「はぁ? 突然何言ってんの? マティアスってそんなこという柄じゃないし、余計なお世話ってもんでしょ、それ!」


「柄ではないのは百も承知だ。しかしお前はまだ若すぎて危なっかしくて黙っていられん。あまりに気が急いてしつこくするとせっかく上手くいっていることもそうでなくなるぞ。男といえどもすぐに決断できない場合もあることを分かってやれ」


「男って……あのさ、ボクも一応性別はオトコなんだけど」


「む……すまない。そういえばそうだったな。が、私の言っていることは間違ってはいないぞ。お前はいつも負けん気が強すぎて困る。たまには年長者のアドバイスは聞くものだ」


 ミュゼットとまさかの恋愛談義を始める竜騎士マティアスだが、剣士としてはもちろん最強クラス。

 僕が今回マティアスに白羽の矢を立てたのは、リナ救出という難易度Sのクエストに挑むにあたり、どうしても物理的に強いメンバーが一人必要と考えたからだ。

 他の候補者として、同じようにレベルが高く、かつ、気心の知れたエリックやトマスのことも一応頭に浮かんだが、二人は今や下級兵士をリーダー的存在になっている。

 援軍が来るまでこの城を守り切ってもらうために、一緒に連れていくわけにはいかなかったのだ。


 その点マティアスは竜騎士の中では格上で、騎士たちの指揮を執る立場だけれど、そのさらに一段上には、ケガから復帰したレーモン公爵がいる。

 病み上がりとはいえ、レーモンには竜騎士たちを束ねる力はまだ十分あるから、たとえマティアスが抜けても、その穴を埋めることは難しくないだろう

 そして何より、マティアスもこの件に関しては深い因縁を持っている。

 任務に関しては常に冷徹だったマティアスも、影武者となったリナのことは心の奥で気にかけているようだったし、また、瀕死の重傷を負わされてしまった女剣士シャノンに対するリベンジも果たしていない。

 そう考えると、マティアス以外、この困難な任務の適任者はいないようにすら思えた。


 が、そこまで経緯に詳しくないミュゼットは、やや不満げな顔をして、マティアスに言った。


「そんなことよりさあ、マティアスはなんでここに来たのか早く教えてよ」


「お前と同じくユウトに呼び出されたのだ。そしてミュゼット、その目的もやはり同じだろう」


「あーあ、やっぱそっか。みんなでリナさんを救い出すためパーティを組むってことだよね?」


「その通りだ。今の切迫した状況、お前も把握しているようだな」


「そりゃまあボクも当事者だし、ユウトに事情も聞いているからさ。つまりもうすぐ魔法薬の効果が切れてリナさんの変身が解けてしまう。そうなれば敵に正体がバレて、リナさんは下手をすればあの世行きってことでしょ?」


「そういうことだ」


「でもさ、そうは言っても、ボクとユウトが組めばこんな任務余裕だと思うんだけど――」


「バカを言え」

 と、マティアスは眉をピクリと動かした。

「聞くところによれば、お前もあの女剣士(シャノン)には手も足も出なかったそうではないか。ましてやお前はあの邪悪な魔女(ヒルダ)の恐ろしさを知らない。そして今度はその二人を同時に相手するのだぞ」


「そりゃまあそうかもしれないけどさ。ちぇー、せっかくユウトと二人きりになれると思ったのに」」


「……まあしかし、お前のその若さゆえの気持ちも分からないでもない。私とてお前とユウトとの仲に割り込むお邪魔虫になりたくないからな」


 マティアスがそんな気遣いをするなんて――

 これまでずっと一緒に戦ってきて、なんだかマティスもずいぶん丸くなったような気がする。

 最初に行動を共にしたときは、本当に冷たい人だと思っていたのに。


「が、今回はさすがにそのような悠長なことは言っている場合ではないぞ」

 と、マティアスが続けた。

「たとえお前とユウトと私の三人が組んでも、全員生きて帰れるかどうか五分五分といった可能性は低いかもしれないのだ。――違うか、ユウト?」


「ええ、正直に申し上げればその通りです。今回は敵の罠に自ら飛び込んでいくようなものですから。マティアス様やミュゼットを巻き込むような形になって申し訳ないのですが」


「いや、これはお前のためにするのではない。リナのためであり、またアリス様の直々の厳命なのだ」


「ただし――パーティは三人ではありません。そこで寝ているセフィーゼにも加わってもらいます」


「な、なんだと!」

 さすがに驚いたのか、マティアスが声を荒げた。

「今まで何百何千もの見方を殺したこのイーザの娘に!? ユウト、正気か?」


「ええ、だからこそお二人をわざわざこの地下牢に呼び出したのです。そもそもセフィーゼの協力なくして、敵の包囲の外にでるのは不可能ですから」


「しかし……」


 どうにも腑に落ちず悩むマティアスに対し、ミュゼットは明るく言った。


「へーなんか面白そうな展開じゃん。――ユウトがそうしたいならそれでいいっしょ。今回の任務の責任者はユウトなんだからさ」


 こういう時、ミュゼットのような存在はありがたい。

 僕はミュゼットを見て思わず微笑んだ。


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