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異世界最弱だけど最強のヒーラー  作者: 波崎コウ
第二十四章 生の悦びを知りやがって
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(7)

 私服になっても相変わらずな男の娘、ミュゼットをわざわざこんな所まで呼び出した理由――

 それは、僕が彼女をリナ救出のメンバーに選抜したからに他ならなかい。


 昨日アリスにすべてを告白した時のこと。

 アリスはひと通り話を聞いた後で、リナを救い出すためならこのデュロワ城にするのはいる誰でも連れていってよい、と言ってくれた。

 確かにたった一人で、魔女ヒルダと女剣士シャノンを相手にするのは絶対に不可能。どうしても誰かの助けを借りなくてはならない。

 と、そこでまず頭に思い浮かんだのがミュゼットだ。


 ミュゼットの炎の魔法がいかに強力かはもうわかっていることだし、彼女が霧の中で笛を吹いてみんなを先導していた際、目の前でみすみすリナをさらわれてしまったという因縁もある。

 だからこそミュゼットは、リナ救出には自分もいっしょに連れていってくれ、と前に言っていたわけだ。

 もちろん、極めて危険な作戦に巻き込こんでしまうという迷いはあったけれど、かといって城に残していってたらいったで後から恨まれるに違いない。

 悩んだ挙句、結局僕はミュゼットをメンバーに選んだのだ。

  

 しかし、そのミュゼットに、よりによってほぼ全裸のリゼットと向き合っているシーンを見られてしまうとは……。

 これでは二人の関係を誤解されるのも当然なので、僕は慌てて弁明した。

 

「ミ、ミュゼット! ……これは、その、いろいろ事情があって」


「ユウト、何言ってんのさ! 事情もなにもそんな格好で言い訳できると思ってんの!!」


「いやそれは、あの……」


「リゼット姉もリゼット姉だよ! 男となるとホント見境ないんだから」


 と、今度はミュゼットはリゼットに食って掛かった。

 しかしリゼットは余裕の笑みで受けて答える。


「あらまぁミュゼット、あなたどうしてそんなに怒るのかしら?」


「怒って当然でしょ! ボクはユウトのこと好きなんだから。ユウトにならボクの大事なモノも捧げていいとすら思ってるんだから――」


「ミュゼットったら、困った妹ねぇ」


 リゼットはそう言って、白のレースのガウンを羽織った。

 そして、優しげな口調ながら、きつい一言をミュゼットに放った。


「その気持ちはわたしも知っている。けれど、あなたはいつからユウト様の恋人になったのかしら?」


「え……!?」


「あらまぁ、やっぱり違うのね。それならわたしとユウト様がナニをしてもあなたが怒るのはおかしなことでしょう。違って?」


「………………」


「ねぇミュゼット、そもそもあなた、ユウト様の気持ちを確かめたことがある?」

 

「そ、それは……ないけど……」


「あのねぇミュゼット。そういうのを片思いの独り善がり、って言うのよ」


 ミュゼットが黙り込んでしまう。

 どうやら気の強いミュゼットも、大人の雰囲気満点な姉リゼットにはまったくかなわないようだ。

 

「……ねえユウト!」


 しばらくして、突如リゼットが僕に向かって叫んだ。


「な、なんだよ?」


「ユウトはボクのことどー思ってんの? 好きなの? 嫌いなの?」


 なぜ、いまここでそんなことを……。

 でも、下手なこと言って、これから共に行動するミュゼットの機嫌を損ねるわけにはいかない。


「そんなこと急に言われても――でも、嫌いってことは絶対ないよ。とっても美人でカワイイと思うし」


「あ、ありがと……!」

 ミュゼットは顔を赤らめ、言った。

「ということはさ、ボクのこと好きなんだよね? 愛してくれているんだよね? 恋人になってくれるんだよね?」


「い、いや、それはすぐには決められないというか……あ、そうそう! リゼットさんの名誉のために言っておくけど、ミュゼットがいま言ったみたいに、リゼットさんは男なら見境ないってことは絶対ないよ。リゼットさんは人の心を癒すのが上手いと言うか、ちゃんと相手を見てケアしてくれているんだ。ほら、そこに寝ているセフィーゼだってリゼットさんのおかげで……」


「待ってユウト、話をはぐらかさないで! それにケアってなに、ケアって? もしかして下半身のケアのこと?」


「ち、違う違う。だからそれは誤解だって。体じゃなくて心のケアのことを言ってるんだ――」


「はぁ――? じゃ、なんで心のケアすんのにいちいち裸になんなきゃいけないわけ?」


「いや、だからそれには深いわけがあって、心と体は表裏一体というか、互いに強く結びついていて――」


「もう! さっきから何わけのわかんないこと言ってんのさ!」


 ……だめだ、このままだと収拾がつかない。

 今さらミュゼットにへそを曲げられて、「いっしょに行かない!」なんて言われてしまっても困る。


 僕は助けを求め、リゼットの方を向いた。

 だが、リゼットは


「フフフ……二人とも、まるで痴話喧嘩ねぇ」


 と言って、おかしそうに笑うだけだった。

   

「さあユウト、逃げないではっきり答えて! ボクのこと愛してくれるの? くれないの?」


 ミュゼットが真剣な顔をして迫ってきたその時だった。

 意外な人物が牢獄の中に入ってきた。

 いや、僕にとっては意外ではないのだが。


「話は聞いていたぞ、ミュゼット」


 ミュゼットに声をかけたのは、騎士マティアスだった。

 彼こそが、僕が選んだリナ救出のメンバーの二人目なのだ。


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