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異世界最弱だけど最強のヒーラー  作者: 波崎コウ
第四章 戦いの始まり
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(7)

 僕らが平原に出てみると、レーモンが兵士たちの前で大声で命令を出していた。


「矢は止んだ! 防御陣形を解き、ただちにコノート城まで撤退を開始する。急がねば敵の攻撃が始まるぞ!! 負傷者は二人一組で支えろ」


 レーモンに従い、兵士たちは盾を下ろして、撤退するための隊列を組み始めた。

 負傷者は、他の兵士たちの助けを借り軍の中央に集められた。


 と、そこへ、アリスがつかつかと歩み出て、レーモンに声をかける。


「レーモン、見事だった。そしてすまなかった」


「アリス様!」

 レーモンが驚いて叫んだ。

「まだここにいらしたのですか!」


 レーモンはてっきり、アリスはすでに戦場を脱出したとばかり思っていたらしい。


「当然だ。私一人で逃げ帰ることはありえぬ。――が、一方で自分が将としていかに未熟だったかも思い知らされた。レーモン、これからはお前の忠告にちゃんと耳を傾けよう。そしてさまざまなことを学びたいと思う」


「それはよいのですが。――いや、よくありません! とにかく今はここから一刻も早くお逃げください。敵に包囲されたら終わりですぞ!」


「まあ待て」

 と、アリスはレーモンを黙らせ、兵士たちの前に立った。

「みんな聞いてくれ。正直に言おう。先行していた第一軍、第二軍は残念ながらイーザ軍の攻撃を受けほぼ壊滅した」


 一瞬、その場が水を打ったように静まり返った。

 突然矢での攻撃を受け、みんなおかしいと感じてはいただろう。

 しかしそれでも、ロードラント軍の主力が全滅したとは、にわかに信じられないのだ。


「だが、この軍を統べる将として、王の名代みょうだいとして、皆の命を守ることをここに約束しよう。全員そろって、必ず無事コノートまで撤退するのだ」


 アリスがそう宣言した、その時――


「残念、一歩遅かったな」

 と、エリックがつぶやいた。


「ギェアアアアアアアアア」


 唐突に、謎の咆哮(ほうこう)が草原に響いた。

 人ではない、何か(けもの)の声だ。


 声に驚いた兵士たちが、慌てて自分たちの周囲をぐるりと見回す。

 すると、四方八方から突撃してくる、数えきれないほどの異形(いぎょう)の化け物が目に入った。


 その化け物の身長は人間の半分ぐらい。

 大きくぎょろりと緑色の目を持ち、全身が茶色でしわしわの皮膚に覆われ、頭に毛はなかった。 

 手には斧やら棍棒やら粗末な武器を持っており、体にはボロボロの鎧を身に付けている。


 その数、数百か数千か――

 アリス護衛軍は、いつの間にか360度、完全に包囲されていたのだ。


「ユウト、こいつら見るのは始めてか?」

 エリックが言った。


「連中、コボルトって言ってな。知能は低いが性格は凶暴。たちが悪い相手だぜ」


 コボルト、またの名はゴブリン。

 こんな奴らが普通に跋扈(ばっこ)しているなんて、この異世界は本当にファンタジーそのものなんだ。

 まったく嬉しくはないけれど……。


「どうやら矢で足止めを喰ってるうちに囲まれちまったらしいな」

 エリックがやれやれ、と肩をすくめた。

「ユウト、覚悟しておけよ。いよいよ始まるぜ、本当の戦争が」 


 一斉に襲い掛かってくるコボルト兵の軍勢をぼう然と眺めながら、僕は思った。


 ああ、やっぱり自分はとんでもない世界に来てしまったんだな、と――



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