(3)
訝しむ僕を見て、牢屋番のメイドが解説してくれた。
「ユウト様はずいぶん驚かれているようですね。でも、これはちっとも不思議なことではないのです。なにしろこの地下牢獄は、リゼット様をリーダーとして我々メイド隊がどんな囚人の方でもごく快適に過ごせるようごく細やかに管理、運営しているのです。なので、ここでしばらく過ごしてみると、わざわざ規則を破ってまで外に行こうとは誰も思わなくなるのです」
「はあ……そんなもんなんですか」
「そんなもんなんですよ。それにたとえ城を出てもここは辺境のさらに奥の最果ての地。荒野が広がるばかりで怪物に襲われる危険すらありえるのです」
「なるほど」
「ご理解いただけましたか? つまり牢獄の本来の目的――罪を犯した人を逃がさない、という目的さえ達成できればその方法や手段は何でもかまわない、という発想ですね。もっとも当デュロワ城においては囚人がいること自体、滅多にないことのですけれど。今も、この地下牢にいるのはお一人ですね」
ということは――
「イーザ軍のセフィーゼですよね、その人」
「ご存知でしたか。ずいぶんかわいらしい少女ですが、先日はお城の中で大暴れして捕えられたとかで――でも今は、リゼット様の看護の元すっかり落ち着いています」
「あの、実はそのセフィーゼに用があるんです。とても大事な用で! セフィーゼはどこにいますか?」
「そちらの廊下の奥の突き当たりがセフィーゼさんの独房となっております。ちょうどリゼット様もご一緒ですわ。ご面会をご希望ならどうぞご自由に」
「よかった、ありがとうございます」
僕はメイドに礼を言って、奥の独房に急いだ。
独房と言っても、白いドアの普通の部屋っぽい。
そこをトントン、とノックすると中から声が聞こえた。
「はぁい、どちら様?」
このねっとりとした特徴的な女の人の声は一度聞いたら忘れない。
リゼットだ。
「リゼットさん、あの、ユウトです。すみませんが、ちょっと急ぎの用があるのですが」
「あら、ユウトさまぁ? どうぞぉ、お入りください」
許可が下りたので遠慮なくドアを開け中に入ると、そこは巨大なベッドが置かれた、ホテルのスイートルームみたいな部屋だった。
いや、しかし、よく見ると内装は派手でそこまでエレガントではないか。
どちらかというと高級なラブホテル、みたいな。
あ……もちろんそんなラブホテルにも泊まったことはないのだけれど。
「これはユウト様、ちょうどよいところにいらっしゃいました」
と、声を発したのは、白い肩がむき出し、かつ胸が大きく開いた露出度の高いミニスカメイド服を着たリゼットだった。
ロゼットもミュゼットも美しいメイドだけれど、一番妖美で謎めいていると言えばこのリゼットだろう。
というのも、本当の性別は男(♂)であるロゼットとミュゼットは顔は女性でもやっぱり胸はぺったんこなのに対して、リゼットはかなりの巨乳。
それがどこからどう見ても本物で、以前押し付けられた柔らかな感触を思い出しても、とても偽乳とは思えないのだ。
「あの、セフィーゼは――?」
が、今はそんなセクハラまがいな発想をしている場合ではかった。
――と、部屋の中を見回すと、セフィーゼはピンクのカバーのかかった巨大なベッドの上にちょこんと座っていた。
レースのついた白いネグリジェ姿のセフィーゼは、ぼうっとした表情をしていて、どこかしどけない感じだ。
僕のことも、まるで目に入っていないように見える。
「セフィーゼ、どうした!? リゼットさん、彼女にいったい何を?」
「ユウト様、そんな血相を変えて心配しなくても大丈夫ですよぉ。この子、ここに連れてこられた時この子は随分ひどい状態だったけれど、私の治療が功を奏し今はずいぶん回復しましたからぁ」
「治療!? それって、セフィーゼに何をどうしたんですか?」
「フフフ、興味をお持ちのようなので、今からその様子をお見せしますね。それでは、音楽スタート!」
リゼットがそう言って指を鳴らすと、照明が少し暗くなり、どこからともなく妙に悩ましい、色っぽいような音楽が流れ始めた。
同時に、リゼットは艶めかしく体をくねらせながら、頭に付けていたメイドカチューシャを投げ捨て、束ねていた美しい栗色の長い髪をほどいた。
それから、リズムにのってゆっくりと踊り出したのだ。
「リ、リゼットさん、どうしちゃったんですか?」
リゼットはそれには答えず、妖しく笑うと、まずは白い布の手袋を取って放り投げ、続いてメイドエプロンを取り、黒のメイドブラウスのボタンを外しはじめた。
これは――どう見てもストリップ。
しかも、踊りはプロ級だ。
驚いてあんぐりしている僕を尻目に、リゼットのストリップはますます過激になってきた。
メイドブラウスを脱ぎ捨て、お揃いのミニスカートもパッと床に落としてしまった。
その下は、どエロいスケスケのキャミソールに、ブラジャー、ショーツにガーターベルト、ストッキング。
色はすべて黒で統一されているが、どこか品もあるのは、それだけ高級な物なのだろう。
しかし目の前でこれを見せられて、興奮をおぼえない男がいるだろうか? (いや、いない)