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異世界最弱だけど最強のヒーラー  作者: 波崎コウ
第二十四章 生の悦びを知りやがって
286/317

(1)

 グリモ男爵のオンステージはその後も異常な盛り上がりを見せ、どんちゃん騒ぎは夜遅くまで続いた。

 しかし僕は、アリスとひと悶着あったせいでそれを楽しむ余裕もなく、くたくたになって途中一人でそこを抜け出し、自室に戻りベッドに倒れ込んでそのまま眠ってしまった。


 そしてその数時間後――

 疲れもろくに癒えぬまま、窓から差し込んできたまぶしい陽光と、久しぶりに聞いたスマホの着信音によって、無理やり叩き起こされた。

 電話の相手は、もちろん現実世界かの清家セリカだ。

 

「おはよ、最弱だけど最強の回復者(ヒーラー)なユウト君。このところご無沙汰だからこっちから電話しちゃった」


 セリカの妙に生き生きした声が、スマホの向こうから聞こえてくる。


「なんだよ清家さん、その呼び方。それに前もそうだったけど、なんでこんな朝早くから……」


「あら、何言ってんの? 今はもうお昼近くよ」


「えっ!?」

 

 さすがにまずいと思い、僕はスマホを耳に当てたままベッドから跳ね起きた。

 できれば今日のうちにこの城を出発したいのだ。

 

「あれから色々とすごいことをやってのけたようだけど、昨日はさすがに驚いたわ。水から毒を取り除いたり、ネズミを食料にしちゃったり――」


「そんなことまでそっちの世界から全部見てたんだ」


 待てよ……。

 ということは、アリスと僕が寝室でのあわやの事態になったことや、ミュゼットとのキスしたこともセリカは何もかも知っているのか。

 そう思うと、なんか迂闊(うかつ)なことはできないな。


「別に問題ないでしょう? だって面白すぎてなかなか目が離せないんですもの。でもね、特に意外だったのは、あなたがリナさんがさらわれてしまったことをアリス王女に白状しちゃったこと」


「ああ、そのこと……」


 セリカの言う通り、実はあの後、僕は覚悟を決めて、リナが魔女ヒルダと女剣士シャノンに誘拐されてしまったことを、土下座してアリスに告白したのだ。

 そして明日にでも、リナを救い出すためお城から出て行きたいと――


「なんかさ」

 と、僕はセリカに心の内を正直に明かした。

「アリスは僕のすべてを見透かしてて、到底かなう相手じゃない。だから嘘をつくこともできないって感じたんだ」


「ふーん。でも不思議なのはアリス王女はまったく怒んなかったことね」


 その点は、僕もまったくの予想外だった。

 リナがリューゴと一緒に王都に戻ったという嘘を言われたことについて、アリスはてっきり激怒するかと思ったのに、ただ黙ってうなずいただけだったのだ。


「もしかしたらアリスは、リナが敵にさらわれてしまったことを薄々勘付いていたのかもしれない。だから今さら怒ってもしょうがないと思ったんだろう。逆に僕がリナを救いに行くって言ったら、よろしく頼むと言われたし」

 

「そうかもね」

 と、セリカは同意して、なぜかクスクス笑った。

「それだけアリス王女はあなたを信頼してるってことかな。リナさんのこと、あなたにまかせておけば大丈夫だと思ったんでしょう」


 そういえば昨晩、アリスはリナを助けるため自分も一緒に行く、とはついぞ言い出さなかった。

 以前のアリスなら、絶対にそうすると言って駄々をこねたに違いない。

 が、さすがに今のこの状況では、兵士たちを置いて自分だけ城を抜け出すわけにはいかないと冷静に判断したのだろう。

 つまりそれはセリカの言う通り、リナのことは僕にすべて頼んだ、ということでもあるのだ。


 いずれにせよ、リナを救い出すためにそろそろ出発しなければならない。

 薬が切れてアリスに扮したリナの正体がばれるまで、もうほとんど時間はないのだ。


「それじゃ清家さん、そろそろ行くね。本当は聞きたいことが山ほどあるんだけど、今はその時間がないから」


「いいわ。リナさんを救いだし無事にここまで帰ってきたらなんでも質問に答えてあげる。あなたはそっちの異世界について、いろいろ疑問に思っていることがあるみたいだから」


「約束だよ」


「ええ、必ず。――でも、まずはこのお城から外に出なければいけないわけだけど、いったいどうするの? 数万の化け物がお城の周りを囲んでいてそれこそ蟻一匹通れないわけでしょう?」


「まあ見てなよ。一応抜け出す方法は考えてあるから」


「本当!? やっぱりあなたってすごい人ね。じゃあ頑張って」



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 スマホを切ってベッドから飛び起き、急いで身支度を整えた。

 それから部屋を出て、僕は廊下を進み階段を駆け下りた。

 目指すは地下牢――先日城に乱入し、クロードの計略により囚われたイーザ軍の首領、風の少女セフィーゼに会うために。


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