(23)
アリスは存分に肉をほおばってから一息つき、再び竜騎士たちに向かって問いかけた。
「さあ、これでどうだ? お前たちよりも身分の高い私がこうやってネズミの肉を美味しく食べているのだぞ。これでもなお、お前たちはこれを口にできないというのか?」
「それは……」
「その物欲しげな顔を見ればお前たちがいかに腹を空かしているのは分かる。だからいい加減意地を張るのをやめよ。ほら、早くしないと兵士たちが全部食い尽くしてしまうぞ」
そこにいた百名ほどの竜騎士たちは、もう我慢はしなかった。
アリスの言葉をきっかけに、みんな堰を切ったように、ネズミの丸焼き目指して走り出した。
そして、先を争うようにガツガツと肉に食らいついたのだ。
「やれやれ、まったく世話の焼ける連中だ」
と、アリスはそれを見て苦笑しつつ言った。
「見ろユウト、彼らの一心不乱なあの様子を。飢えの前には貴族だろうか王族だろうが、物乞いだろうが奴隷だろうがそんなこと関係ないのだ。――とはいっても、さっきまでの騎士のプライドは何処へ行ったのやら、いくらなんでも酷いマナーだな。あれではまるで餓鬼ではないか」
「それくらいお腹が空いていたのでしょう」
「ああ。しかしユウト、誤解するなよ。私は彼らを非難しているのではない。私も含め、あの姿が人間本来の一面であり本質だと言いたいのだ」
「ええ、分かっています」
「そう考えると、現世の身分の差など我々が勝手に作り出した虚飾。うわべだけを取り繕う、本当に取るに足らない至極くだらない事柄なのやもしれぬ。なあユウト、そうは思わなか?」
身分の差――
その点を考えれば僕とアリスがこの異世界で結ばれることは未来永劫ないわけだが……。
もしかしてアリスはそこを踏まえて、恋愛に身分の差など気にする必要ないと言いたいのか?
……いや、それはちょっと発想の飛躍しすぎか。僕の思い込みでうぬぼれだ。
「もう二人とも! なに深刻ぶっちゃってわけのわかんないこと言ってんのよ!」
と、その時、貴重な酒を空にされてしょぼくれていたグリモ男爵が、突然立ち上がって叫んだ。
「こーなったらやけくそよ。祭りだ宴だパーティーだってのにここには肝心なものが欠けている。わかる? そう――歌と踊りよね!」
急にテンションの高くなった男爵は、アリスに向かって叫んだ。
「アリス様! ロードラントの王女様を前にして失礼なの承知でさせてもらいますけれど、今夜だけは私がこの城の女王を名乗らせていただきますわ」
「よいよい、それも一興。大いにやってくれ」
「あら嬉しい。――そうと決まったらロゼット! 衣装と音楽の用意を急いで。このバロン=グリモの一夜限りの最高のオンステージを皆さんにお届けして差し上げるから」
男爵は僕とアリスにそう言い残し、ロゼットを連れて城の中へそそくさ入って行った。