(6)
「貴様、ずいぶん言ってくれるな」
アリスはエリックをにらみつけた。
「まあまあ、そんな怖い顔なさらないでください。アリス様の身を思えばこそです」
と、エリックはへっちゃらだ。
「もしアリス様がイーザの連中に見つかれば、奴ら真っ先にアリス様の首を切り落としにきますからね。つまりここに留まれば、それだけ危険が増すというわけです」
「首を切り落とす! な、なんて不吉な!」
リナが怒って叫んだ。
「さっきから黙って聞いていれば! 許せません! あなたは誰に向かってものを言っているのか分かっているのですか!」
「よいのだリナ」
と、アリスはリナをたしなめた。顔はムスッとしているけれど――
「歯に衣着せぬ物言い、嫌いではない。宮廷の媚びへつらう能無しどもよりずっとましだ」
「お褒めいただき、光栄です」
エリックはニヤニヤしながらお辞儀をする。
「エリック、もう一度訊く」
アリスは真摯な顔に戻って尋ねた。
「私は逃げない。そしてどうにか皆を助けたいのだ。何か良い作戦はないか。頼む、教えてくれ」
「うーん、もしどうしても、とおっしゃるなら――」
エリックは一瞬考え、意外なことを言った。
「アリス様が先頭に立ち、大至急、全軍のコノート城までの撤退を指揮するべきです。一軍と二軍の敗走兵を救うにしても、ます我々の態勢を立て直すことが必要ですからね。
――でも、その前にどうしてもやらなければいけないことが一つ」
「何? なんだ、それは!?」
「第一、二軍が全滅したことを、兵士たちに包み隠さず話すのです。まずはそこからですな」
「――し、しかし、皆はまだ全滅の事実を知らないのだぞ」
アリスは驚いて聞き返す。
「余計に混乱が広がるのではないのか?」
「いいえ逆です。アリス様の正直さが逆に主従の信頼と結束を強めるんです。我々が助かる道はそれしかありません」
「……わかった」
アリスは大きくうなずいた。
「エリック。お前の言うことに、私は大いに納得した。――では、行ってくる」
そしてアリスは濃紺のマントを翻返し、兵士たちの方へ向かって走っていった。
矢の攻撃はその時、すでに止んでいた。
何もかもエリックの予言通りだ。
「なかなか素直で勇気のある王女様だな。こりゃ見込みがある。俺も一つ力になってやるか」
そう言って、エリックはアリスの後を追った。
「ちょっと待ちなさい! まったくあなたという人は!」
リナはまだ怒っている。
「リナ様、今は怒っている場合では……」
僕はリナに言った。
「まずはみんなでアリス様を助けましょう」
「そ、そうですね」
と、リナは顔を赤らめている。
「ごめんなさい。アリス様のことになるとつい……」
とりあえず今はアリスの決断に従い、それをサポートするしかない。
そう意見が一致した僕とリナは、連れだって林から飛び出した。




