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異世界最弱だけど最強のヒーラー  作者: 波崎コウ
第二十三章 王女殿下がXXXの丸焼きをお召し上がりなるまで
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(18)

 見張りの兵士は、化けネズミの肉のあまりの不味さにしばらく絶句し、それから恨めしげに言った。


「ユウト殿、これはあまりにも酷い! 酷い味です」


「やっぱりそうでしたか。スミマセン……」


「やっぱりって――知っていたなら教えて下さいよ。ユウト殿もまったく人が悪い。ところであの……まさかこのネズミ、毒など持っておらんでしょうな」


「ああ、それはもちろん大丈夫ですからご安心ください」


 味はともかく、ネズミの肉に人体に影響を及ぼすような有害性はない――

 エリックがそう言っていたのだから、その点は間違いないだろう。

 とはいえ、兵士だけにそんなもの食べさせてしまったのは申し訳ない気がして、僕は少量の肉をちぎり口の中に放り込んだ。


「………………」


 確かにマズい。

 ものすごくマズい。


 何と言おうか――食感はごく普通の豚肉ようなのだが、妙に油っぽく、さらにヘドロと強い獣の入り混じったような味が強烈なのだ。

 このままではみんながどんなお腹を空かしていても、とても食料にはできそうにない。


「いやあ、しかしこんな臭い肉を食べたのは生まれて初めてですよ」

 と、兵士が顔をしかめながら言った。

「いくら酔狂な人間でもこれは食えんでしょう。たとえ飢え死にしそうでも無理ですな」


「それは同感です……」


 僕がうなずくと、後ろで見ていたミュゼットがニヤニヤして言った。


「へへー、やっぱそうだと思った。そもそも何でも食べちゃう雑食性の化けネズミのお肉が美味しいわけないんだよ。残念だけどユウトのアイデアは不発だね」


「いやミュゼット、それはまだわからないよ」


「え、ナニナニ? なんか他に方法があるの。水に混じった毒をユウトが魔法で取り除いたって話は聞いたけどさ、食べ物を美味しくする魔法なんてあったっけ?」


「別に特別な魔法を使うわけじゃないよ。まあ見てて」


 ミュゼットに改めて白魔法の力を見せてやろうと思い、僕は兵士が一部を食べたネズミの丸焼きに向かって呪文を唱えた。

 

『クリア!!』


 井戸の毒の水に魔法をかけた時と同じように、クリーンな光がネズミの丸焼きを包み込み、一瞬光ってすぐに消えた。

 見た目は変わらないが、思った通りの効果があったのは、感覚でわかる。


「さあできあがりました。さっきとはまったく別物だと思いますから、どうぞ召し上がってください」


 自信ありげな僕に、兵士は不審の目を向けて言った。


「ユウト殿、本当でしょうか? その魔法で肉の味が変わったとでも?」


「まあいいですから、騙されたと思って食べてみてください。なんなら僕が先に食べてみましょうか」


「いや、ユウト殿がそこまで言われるならそれを信頼しましょう」


 兵士は再び短刀を取り出し、今度は少しだけ丁寧に肉を切り取った。

 そしてそれをこわごわ口に運び、ごく少量かじり取る。

 その途端――


「おおっ」

 と、兵士は手を叩いて叫んだ。

「これはうまい! ジューシーで香ばしくて、さっきとは真逆だ。いやこんな美味しい肉を食べたのは生まれて初めてですよ」


「そうですか、それはよかった。あ、調理場から塩はもらってきてますから、好みでどうぞ」


「これはありがたい!」


 よほど空腹だったのか、兵士は塩をふりかけネズミの丸焼きに一心不乱にかぶりつく。

 その様子に、ミュゼットが目を丸くして言った。

 

「へえーすごいじゃん。解毒魔法をかけただけなのに、なんで?」


「別にたいしたことじゃないんだ。解毒した井戸水を飲んだ人が味まで美味しくなったって言うのを聞いて、もしかしたら食べ物にだって効果があるんじゃないかと思いついたんだ」


「あーなるほど。要するに『クリア』の魔法は毒だけじゃなくて肉の味を悪くしている他の不純物まで取り除いたってことだね」


「そうそう、その通り」


「でもさ、普通はこうはいかないと思うよ。ユウトの魔力のレベルの高さの賜物(たまもの)が味まで変えたんだよ――あの、ところでさ」


 と、そこでミュゼットは僕にグッとしな垂れかかってきた。


「みんなを救うためとはいえ一応協力したんだからさ、ボクのお願いも聞いてほしいんだよね~」


「それってもしかして……二人きりでさっきの続きをするってこと?」


「うん!」


 ミュゼットはハニカミながらうなずいたのだった。



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