表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界最弱だけど最強のヒーラー  作者: 波崎コウ
第二十三章 王女殿下がXXXの丸焼きをお召し上がりなるまで
277/317

(16)

 ミュゼットは僕の呼び出しに応じ、機嫌よく地下まで降りて来てくれた。

 ところが食料庫の前で用件を話した途端、急にふて腐れ、ブーブー言い始めた。

 

「あのさユウト、言っておくけどボクもメイドの仕事で暇じゃないんだよ。それでも折り入って頼みがあるからって来てみたら用事ってそれ? なんか甘く見られているっていうか、ユウトってボクの魔法を便利なレンジかオーブンと勘違いしてない?」


 いつの間にかユウ兄ちゃんからユウトと呼び捨てになっている……。

 ということは、結構本気で腹を立てているのだろう。

 でもまあそのユウ兄ちゃんという呼び名はこっ恥ずかしかったので、むしろ良かった。


「いやそんなことないって。でも今の食料不足はみんなにとってすごく深刻な問題だろ。だからここはミュゼットの力を借りるしかないんだ」


「まったく……地下倉庫に来いっていうから、てっきり密会デートのお誘いかと思ってきたのにさ、ホント期待外れだよ」


「ミュゼット、密会って――いや、この切羽詰まった状況でそんなことできるわけないでしょ」


「何言ってんの。わざわざ人目を避けてボクを呼び出したんだからさ、普通は思うじゃん――」

 と、ミュゼットはその無垢な顔に似合わない、微妙にエッチな笑いを浮かべて囁いた。

「やることは一つってね、ユウト」


「え?」


「わかってるくせに全部言わせないでよ! だからさ、ボクの初めてをすべて捧げるつもりできたんだ。準備も覚悟もできてるんだから」


「待った待った! こっちはそんなつもりは……」


「じゃあちょっと考えてみてよ。四方を敵に囲まれ明日をも知れない命、そんな中二人は熱くお互いを求めあい激しく体を重ね強い愛を確かめるのでした――ってなかなか燃えるシチュエーションでしょ?」


「それはまあ――」


 僕はすぐに、リナと王都に援軍を呼びに行って離れ離れになった竜騎士リューゴのことを連想した。

 あのカップルは別れ際、そんなことをする暇はとてもなかったわけだが、ある程度時間に余裕があって二人きりになっていたのならば、あるいは――

 ……しかし相手が男の娘の場合、どうなんだ?

 当然キスやそれ以上のこともするわけで、やっぱり僕は入れる方でミュゼットは入れられる方なのだろうか?

 まあ、ミュゼットがあまりに可愛いので、それもあり得なくはない――かもしれない。


「ゴホンッ」

  

 その時、食料庫の見張りの兵士がわざとらしくセキをした。

 そういえば、ここには僕とミュゼットの他に彼がいたのだった。

 兵士は僕たちの会話が耳に入ったのだろう、気まずい思いをしているに違いない。


 しかしミュゼットはそんなこと気にもしなかった。

 それどころか臆面もなく、兵士にすり寄って声をかける。


「というわけで見張りの兵隊さん、本当に申し訳ないんだけれど、ちょっとだけ席を外してほしいだ」


「そう仰られましても。私には私の任務がありますので」


「そんな固いこと言わないで。ボクとユウトがいればここは問題ないでしょう? ねーお願い!」


 ミュゼットは体をピタッと兵士にくっつけ、腕に手を回した。

 その真面目そうな兵士は赤面し、答えた。


「やむをえません。承知しました。私も恋する二人の逢瀬を邪魔するほど無粋ではありあませんから」


「わーありがとう」


 ミュセットはそう言って、兵士のほっぺにちゅっと軽くキスをした。

 これをやられて、嬉しくない男はこの異世界には存在しないだろう。

 

「それでは私はしばらく休憩することにいたしましょう。しかしユウト殿、ニクイですなあ。このような美しく可憐な男の娘メイドと×××することができるのですから。あなたはとんでもない果報者だ。まったく羨ましい限りですよ」


 兵士は僕を肘で小突き冷やかし、そらから本当に食料庫を出て行こうとしたので、僕は慌てて引き留めた。


「わー! ちょっと待ってください!! 上ではみんなつらい思いをしているのに僕たちだけそんな不謹慎なことはできるわけないじゃないですか。――ミュゼットもふざけるのはもう止めて!」


「別にふざけてないんだけどね。あーあ、ユウトに怒られちゃった」


 ミュゼットはいたずらっぽく笑い、可愛く舌を出した。

 もちろんまったく反省していない。


「ミュゼット! とにかくお願いした通り頼むよ」


「はーい。魔法で倉庫の中の化けネズミを焼きつくせばいいんでしょ」


「ああ、ミュゼットの魔力なら火力を調整してうまくネズミだけを焼けるよね? お城が火事になったら困るから」


「まあそんなことお安い御用だけどさ。でもさあ、その後で本当にネズミの丸焼きを食べるの? いくらお腹を空かしてるからって何だかゾッとしないというか、もはや悪趣味だよね」


「確かに残酷だしゲテモノ喰いと言ってもいいかもしれない。けれど、援軍がいつ到着するか分からないこの極限下の状況ではそれしか方法がないんだ。でないと敵と戦う前にみんな飢えに負けてお城が落ちてしまう」


「そこまで言うならやるけどさ。あ、断っておくけどボクはお腹すいてないしダイエット中だから遠慮しとくね。そんじゃ始めますか」


 ミュゼットは食料庫の扉の前に立った。

 食料庫は三つの区画に別れており、そのすべてを数千匹の巨大な化けネズミが占拠している。

 だが、いっぺんに全部を退治する必要はないだろう。

 一部屋のネズミだけで必要十分、おそらく全兵士の数日分の食糧をまかなえるからだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ