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異世界最弱だけど最強のヒーラー  作者: 波崎コウ
第二十三章 王女殿下がXXXの丸焼きをお召し上がりなるまで
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(11)

「おおおお――」


 レーモンの登場と、その唐突で無茶ともいえる行動に、兵士たちが何ともいえない声を上げた。

 少なくとも好意的ではないし、にらみつけたり、ブーイングを送ったりする者さえいる。

 要するに、自分たちを犠牲にしてアリスを逃がしたレーモンに、多くの兵士がいまだ強い反感を抱いているのだ。


 しかし、いくら一般兵のことなど気にも留めないはずのレーモンでも、その件についてはさすがに罪悪感があるのだろう。

 ここに来て危険な毒味役をあえて買って出たのも、アリスのためだけというわけではなく、怒れる兵士たちに対する贖罪の意味も含んでいたのかもしれない。


 が、たとえそうであっても、桶の水を豪快に飲み干してしまったレーモンの身が心配なことには変わりない。

 万が一レーモンが毒にやられた場合に、すぐにでも『クリア』の魔法を使えるようにと、僕は急いでレーモンのそばに近寄った。


「レーモン様、そんなに無理して一気に飲まれなくても……」


「いやユウトよ、別に無理をしたわけではない――」

 と、レーモンは僕の方を見て、かすかに笑って言った。

「お前の魔法がかかったこの水、ロードラントのどの名水よりも美味だったから一息に飲んだまでだ」


「お体になにか異変はありませんか?」


「問題ない。むしろ気分が清々しくなって一気に十歳くらい若返った気がするくらいだ」


 その言葉の通り、レーモンの顔はついこの間まで生きるか死ぬかの重傷人だったとは思えないほど血色が良い。

 助かった。

 どうやら魔法は成功、水から毒は完全に消えたようだ。 


「でかしたぞレーモン」

 アリスはレーモンの肩に手を置いてから、周りを取り囲む兵士たちに向かって大声で叫んだ。

「皆、見ていただろう! ユウトの白魔法は万能であることをたった今、レーモンが証明してくれた。さあ、水が欲しい者は井戸に行って汲んで来い。そしてユウトに毒を取り除いてもらえ」


 アリスの言葉を聞いた兵士たちが、一斉にわっと井戸に向かって走り出した。

 あの様子だと、みんなよほど喉が渇いていたのだろう。


「やっぱりユウト君の機転は大したものですね」

 と、そこでクロードが褒めてくれた。

「まさか水に直接魔法をかけるとは私には思いもよりませんでした」


「いえ、単なる思い付きです。魔法で人という生物を解毒できるなら、水という物質から毒を取り除くことだって可能かもしれないと思っただけです」


「なるほど納得しました。……といっても一つ一つ桶の水に魔法をかけていくのは効率が悪いですね」


「ええ、それはそうだと思います」


「では、一つ提案があるのですが、庭の中央にある大きな泉と噴水――戦いの最中と言うことで今は水が抜かれていますが、あそこに水を入れて一気に魔法で浄化するのはどうですか? もちろん私も手伝いますし、シスターマリアも協力してくれるでしょう」


 確かにそれはいいアイデア――

 ということで、以前グリモ男爵が趣味で作らせた石造の美しい泉に、水が満たされた。

 そこへ白魔法を使える僕とクロードとシスターマリアの三人が『クリア』を協力してかけ続け、まるで巨大な浄水場のように大量の水を浄化していった。


 それを見ていた兵士たちは大喜びだ。

 キラキラ輝く水をガブ飲みしたり、頭からかぶったり、心ゆくまで堪能している。

 むしろ毒に侵される前の水より水質が良くなったとさえ言う人もいた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「みんな本当にご苦労だった。それにしても、敵が一向に攻撃をしてこないのはどういうわけだろうか?」


 すべての兵士にいきわたる十分な水の量を確保し、一休みしているところへ、アリスが訊いた。  

 それにクロードが答えた。

   

「おそらくは敵も我々の守りが予想以上に固くこれを崩すのは困難と見て、まずは水を断ち、弱ったところへ総攻撃をしかけるつもりだったのでしょう」

 

「敵もバカではないというわけだな。だがその目論見もお前たちの活躍によって崩されたわけだ」


「水についての問題はそうでしょうが、しかし――」 

 と、クロードの顔が曇る。

「食料の方がどうなっているのかがわかりません。朝食も今朝はみんなまだ食べていないようですし、腹が減っては戦はできぬというのは基本中の基本ですからね」


 そういえば変だ。

 朝ごはんの時間はとっくに過ぎているはずなのに、配給が始まる様子はない。

 あるいは水が使えなかったから、用意するのが遅れているのだろうか?


「クロード様ご安心ください。昨日の夜、グリモ男爵様はかねてから備えてあった非常用の食糧庫を開けるといっていましたから、たぶんそのうちに配られると思いますよ」


 僕が不安げなクロードに向かってそう言った時――

 タイミング良くというか悪くというか、城の中から、その男爵が飛び出して来たのだった。


「ちょっとちょっとちょっと!」

 と、甲高い声を上げながら走ってくる男爵。

「ユウちゃん、たいへんたいへんたいへんなのよ!」


「いったいどうしたんですか?」


「やられたわ! やられたのよ! ――あら!」


 男爵はそう叫んでから、中庭にたくさんの兵士がいることに気が付いたのか、慌てて声を抑えて言った。


「アリス様もいらしたのね。ちょうどよかった、アリス様もお聞きください。ア、ア、アタシの食料庫が、とっておきの食糧庫が――」


 またまた嫌な予感しかしない。

 そしてこの予感は、今までほぼ的中しているのだ  

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