(6)
「これってね、女には絶対にマネできない男の究極の特権なのよ!」
と、男爵は高らかに叫ぶ。
「申し訳ないけど女性は受け入れることしかできないでしょ、だって肝心のアレがついていないだから。ね、ね、わかる?」
「それはその通りかもしれませんけど、そんなに熱弁を振るわなくても……あとお顔が怖いですよ」
「あらやだ、アタシったらつい興奮しちゃって」
と、男爵はポッと赤くなった頬に手を当てた。
「でもね、どうしてもユウちゃんには理解してほしかったの。男×男の素晴らしさを。一度知ったらもうおったまげちゃうわよ」
「わかりました、わかりましたから! だけど男爵様、今はとりあえず大広間に行かせてください。ロゼットさんやシスターマリアを待たせていますし、ケガをした人たちのことも気になります」
「そうね――まあそれがいいわね。少し残念ではあるけど……。実はね、アタシもいよいよ明日、万が一の時の非常用の食糧庫を開けるからその手はずを整えなきゃいけないの。本当言うと、かなり長い間ほったらかしで中身が心配なんだけど、この状況じゃ仕方ないものね」
男爵な顔がいきなり深刻になる。
そこまでしないといけないなんて、よほど兵士たちの食糧がひっ迫しているのだろう。
しかし――
「男爵様、そんな重要な仕事があったのに、わざわざ僕とアリス様のお節介を焼きに来たんですか?」
「あらやだユウちゃん、それはそれこれはこれよ。オホホホホ。それじゃグッドラックよ!」
男爵は笑って誤魔化し、スキップを踏みながらさっさと先に行ってしまった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――やれやれ、男爵のおかげで余計に疲れてしまった。
グリモ男爵と別れヘロヘロになりながらも、僕はようやく大広間に戻った。
そこではシスターマリアと、男の娘メイドの長女ロゼットが、一睡もせずケガをした兵士たちの様子を見てくれていた。
僕はまず勝手に飛び出しことをシスターマリアとロゼットに詫びて、その間、城壁の上でどんな戦いがあったかをざっと説明した。
そして、話を聞いて感心する二人に、疲れと興奮で逆に眠れそうにないので、ここは僕にまかせてどうぞ休んで下さいと、申し出た。
二人とも最初は断ったが、よほど疲れていたのだろう、しばらくしてからその申し出を受け入れ、部屋に引き上げて行った。
その後、僕は寝ている兵士たちの様子をざっと見て、特に心配そうな症状の人もいなかったので、椅子に座って夜を明かすことにした。
しかし、次なる大事件は、明朝早くに起ったのだった。
「ユウト様、たいへんでございます。どうかお目覚め下さい!」
いつの間にか椅子の上で眠ってしまったのだろう、僕はロゼットに体を揺り動かされて目を覚ました。
「……んん、ああ、ロゼットさん、おはようございます」
寝ぼけまなこをこすりながらあいさつしたが、ロゼットはそれどころではない、という風に叫んだ。
「お休みなのに申し訳ありません。しかし一大事なのです。どうか一刻も早くお城の中庭までいらして下さい!」
いつもは落ち着いているロゼットの取り乱した様子に、すわ攻城戦が再開されたのかと思い、僕は椅子から飛び上がった。
だが、ロゼットに連れられて中庭に急ぐ途中、城の外の方は至って静かだということに気が付いた。
ということは、どうやら敵が攻めてきたわけではないらしい。では、何が起きたんだ? と、中庭に飛び出ると――
そこには二十人ほどの兵士たちが、ひどく苦しそうに腹を抱えながら、地面の上をのた打ち回っていたのだった。
これはいったい――!?