(14)
「ああっ……!」
アリスの裸の体に目が釘付けになった僕は、言葉を失い、ただ息を飲んだ。
月光を受けて銀色に輝く髪。
どこかあどけなさを残す、神秘的な青い宝玉のような碧眼。
白く光沢のあるなめらかな肌。
さほど大きくはないけれど、形良く膨らんだ張りのある胸に、ツンとした上向きの薄紅色の乳首。
ほっそりとした腰に微妙にカーブを描いたお腹。
そして――ツルすべな下半身の特定の部分。
どのパーツもそれぞれ美しくバランスも完ぺき。だからといって性的ないやらしさは微塵も感じさせない。
そうれはまるで、世界的名画から飛び出した一個の芸術作品を鑑賞しているようで、僕なんか恐れ多くて指一本触れることはできない。
“神聖ニシテ侵スベカラズ”なんて言葉すら、頭に浮かぶ。
が、しかし、アリス本人は、裸になっても特段変わってはいない。
特に恥ずかしがるわけでも、また見せびらかすわけでもなく、ごく素のままな感じでそこに立っている。
「どうしたユウト?」
と、アリスは微笑んだ。
「なんだか顔がこわばってるぞ」
「いえ、そ、それはその、あの……」
「フフフ、本当にお前は時々おかしくなるな。――さて、体も楽になってことだし、そろそろ休ましてもらうか。さすがの私も疲れた」
「え、ええ。はい、それがよろしいかと」
我に返った僕は、しどろもどろに答えた。
そうだった。
この部屋に戻ったのはゆっくり休むことが目的。
自分はいったい何を期待していたのだろう?
「風呂に入ろうとも思ったが今はそれさえ億劫だ。お前が臭わないと言ってくれたからこのまま寝るとしよう」
「し、しかしそのお姿では。寝巻か何か着ないと――」
「必要ない。私はベッドに入るときは何も身に付けん。普段からな」
アリスはそう言って、裸のまま大きなベッドの方へ歩いて行き、さっと中に潜り込んでしまった。
そして、そこから顔だけ出して僕を上目遣いで見た。
「なあユウト、お前も少しここで休んでいったらどうだ? 部屋の外は兵士一杯で、もうロクに寝る場所も残ってなさそうだったではないか」
「は、はあ――」
確かに相当疲れていることは事実。なので、僕は部屋の中を見回して言った。
「では、あちらの椅子でしばらく――」
「待て待て。私が王女だからといって遠慮することはない。このベッドで一緒に休め。二人寝ても十分な大きさだし、お前なら横にいても別に気にならないからな」
「ええっ! いや、いくらなんでもそれは……」
いきなりのアリスの提案にビビッて、僕はその場に固まってしまった。
それにしても、果たしてアリスの真意は――?
①本当にただの好意で、言葉通り、ベッドでしばらく寝て休めということ。
②そうではなくて、男と女としてベッドの中で一夜を共にするということ。
そのどちらかのわけだが、まあ、アリスの性格からして圧倒的に①で90%の確率。②はせいぜい10%だ。
ところが――
「ただしユウト」
と、アリスが目をつぶってから言った。
「お前も服は脱いでから寝ろよ。見たところかなり汚れているようだからな。すまないがベッドは綺麗にしておきたいのだ」
「へ……!?」
おおいっ!
それってアリスと同じく裸で寝ろってことか。
これで②の確率が一気に50%まで上昇した感じ。というか、古典的に表現すればほとんど“据え膳食わぬはなんとやら”状態ではないか。
でも……。
眠りに入ろうとしているアリスの顔を見ながら、僕は、その先の行為を頭の中で妄想し始めてしまった。
今の自分に『それ』ができるのか……?