(13)
「ふと思ったのだが、その、なんだ――私の体、臭く……ないか?」
「へ!?」
「なにしろ二日以上風呂に入っていないから、汗の匂いが少々気になってな」
と、恥じらうアリス。
人前で服を脱ぐのはへっちゃらだけど、自分の体臭は気になるらしい。
でもまあ、そう言われたからには確かめてあげなくては――
「アリス様、失礼します 」
その時の僕は、着替えを手伝ったことで、より大胆な気分になっていたのかもしれない。
普段なら絶対にしないようなこと――アリスのブロンドの髪に、背後から鼻をこすれるくらい近づけ、クンクンしようとしたのだ。
が、その気配に気が付いたアリスは、振り返って叫んだ。
「バ、バカ! 犬ではあるまいし、わざわざそんなに顔を近づけてかぐ奴があるか!」
「いやしかしアリス様、もう少し近づかないと、本当ににおうかどうかなんてわかりませんよ」
そう言って、僕はもう一度強引に鼻をアリスに近づけた。
すると――確かにほんのり汗ばんだ感じはあった。
が、それは決して不快なものではなく、むしろ、元々アリスが持っている爽やかで清潔な芳香と混じり合って、男なら誰しも頭がクラッとするような、切なく甘酸っぱい香りを醸し出していた。
「べ、別にお体はなんのにおいもしませんよ。無臭です」
とはいえ、さすがにそのことを直にアリスに伝えてしまうほど無神経ではないし、下手をすれば、においフェチの変態野郎と思われかねない。
なので、僕は適当に嘘をついた。
「おお、そうか。それで安心したぞ」
アリスは嘘とも知らず、はにかんで笑い、前に向き直った。
「では引き続き紐を何とかしてくれ。早くこの窮屈なものを脱ぎ捨てたいのだ」
アリスに言われ、再びビスチェのタイトな紐に取り掛かる。
慣れもあって、残りの紐は割とすぐにほどけたが、ビスチェを取ったらアリスはほぼ裸なわけで――
「アリス様、一応ほどき終わりましたが……」
「よし! ご苦労だった」
アリスは僕から離れ、少し歩いてから、窓を背にしてこちらに振りかえった。
それから迷うことなく、紐がなくなって緩んだビスチェを一気に脱ぎ捨ててしまった。
「あっ――!」
いくらなんでも、いきなり裸になると思わず、僕は叫んだ。
アリスはブラジャー(この世界にあるかどうか知らないけれど)などは付けていない。
つまり、パンツ(白)一丁。
エロオヤジ風に言えば、パンティ一1枚。
真面目(?)に表現すれば、ショーツ一枚。
日本語で言えば下着姿――いやまて、それだとブラジャーも含まれるてしまう……そういえば日本語でパンツのことってなんて言うんだろう?
つとめて冷静になろうと、どうでもいいことを必死に考えていると、アリスが心底すっきりした顔で叫んだ。
「ああ! ようやく解放された! まったく拷問器具かなにかか、これは」
と、アリスは床に落ちたビスチェを蹴とばして言った。
「ついでにこれも脱いでしまおうか」
「アリス様、それだけはちょっとお待ちを――!」
アリスは僕の言うことなど聞く耳持たない。
小さなシルクのパンツに手をかけ下におろし、それをスルリと足から抜き取とり、ついに、素っ裸になってしまったのだ。
ちょうどその時。
雲が風に流されたのか、窓から青白い月光が差し込んできた。
どうやらこの世界の月は現実世界の月よりも、ずっと強く輝いているらしい。
部屋のあちこちに置かれたランプの灯りが霞むくらい、室内が明るくなった。
その分、アリスの一糸まとわぬ裸体が、目の前にはっきりと浮かび上がる。