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異世界最弱だけど最強のヒーラー  作者: 波崎コウ
第二十一章 狂気の少女
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(9)

「クロード様、とにかくやってみます」

 僕はしゃがんだまま、クロードの顔を見上げて言った。

「ですから、どうか『リペア』の魔法をご教授ください」

 

「そうですか! 挑戦してみますか」

 と、クロードは笑顔で答える。

「――といっても、私が教えてあげられることはそう多くはありませんが」


「いえ、なにしろ初めて使う魔法ですから、いろいろ教えていただかないと困ります。――あの、まずは足をこうすればいいのでしょうか?」


 僕はセフィーゼの切り離された左足を手に取って、左大腿部の切断面と合わせ、クロードに尋ねた。

 

「ええ、それで問題ありません。後は他の白魔法を使う時と同じく治癒後の姿を想像(イメージ)しながら気持ちを込めて呪文を唱えればいい。ちなみに魔法の効果は術者の魔力だけでなく、その心の在り方によって大きく左右されます。思いが強ければ強いほど良い結果を生むということですね。――おっと、これはユウト君にとっては言わずもがななことだったかな?」


 要するに魔法というもの唱える人の心を映す鏡ようなもの。 

 セフィーゼを救ってやりたいという気持ちが強い僕なら、きっとクロードよりも『リペア』の魔法を上手く扱えるはずだ。


「それではいきます」


 自信を強めた僕は、セフィーゼの患部に手を当て、精神を集中させ、できる限り心を込めて魔法を唱えた。


『――リペア!』


 手の平からとろりと流れ出る赤い光。

 その光は切断された傷口に流れ込み、まるで接着剤のように切り離された骨と肉と皮をあっという間につなげていく。

 さらに出血もすぐに収まった。


 よし、これでもうセフィーゼは大丈夫。

 積み上げててきた経験でそれが分かる。

 

 セフィーゼの顔に血の気が戻り、表情も穏やかになってきたのを確認して、僕はふっと肩の力を抜いた。


「ユウト君、見事です!」

 それを見ていたクロードが、感銘してため息をつく。

「初めて使う『リペア』なのにここまでできるとは。本当に素晴らしいとしか言いようにありません。私も魔法に関してはそれなりの心得があるつもりですが、あなたには到底及びませんね」


「よくやったな、ユウト」

 と、アリスも僕の肩に手を置いて言った。

「やっぱりお前は頼りになるな。これから先もずっと私に仕えてほしいものだ」


 二人はやたら僕を褒めちぎってくれる。

 が、この先セフィーゼに待ち受けている過酷な運命のことを考えると、まったく喜べないのだった。 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「さてアリス様、セフィーゼの処置、いかがいたしましょうか?」

 それまで影の薄かったマティアスが、そこでアリスに声をかけた。

「おそらく間もないうちに敵の総攻撃が始まります。セフィーゼが城壁に開けた穴はすでに兵士たち塞ぎにかかっていますが、それでも敵を迎え撃つ準備を急がねばなりません」


「分かった。確かにいつまでもセフィーゼのことばかりかまってはいらんな」

 アリスはすっかり容態が安定し眠っているセフィーゼに、ちらりと視線を移して言った。

「マティアス、この城に牢獄のような場所はあるか?」


「はい。城の地下に牢があるかと存じます」


「よし、戦いが終わるまでセフィーゼはそこへ閉じ込めておけ。ただし風魔法を使われないように注意しろよ」


「かしこまりました」


「それと私の兵に限ってそんなことを起こさないと信じたいが……見張りの者や兵士たちがセフィーゼに狼藉を働かないよう注意しろ。処刑の日が来るまで、セフィーゼはくれぐれも丁重に扱うのだ。よいな?」


「万事心得ております。早速グリモに手配させましょう。奴に任せておけばまず間違いはありません」


 狼藉――つまり牢につながれ抵抗できないセフィーゼが誰かに乱暴されるのを、アリスは多分心配しているのだ。

 何といってもセフィーゼは、魔法さえ使わなければ“超”のつく美少女。

 しかもこれまで多くのロードラント兵を殺し、大いに恨みも買っている。

 そんな中、一人や二人(よこしま)な考えを持った兵士が出てきても、全然おかしくはないだろう。


「あのマティアス様、よろしければ――」

 アリスと同じ不安を感じた僕は、マティアスに申し出た。

「僕がセフィーゼを男爵様のところへ連れて行きましょうか?」


「おお、ユウト、そうしてくれるか!」

 マティアスが助かった、という風に叫んだ。

「私は城内に待機している第一軍と二軍の兵を再編し城の防衛に当たらせるという大事な任務があって、実は一刻の猶予もないのだ」 


 アリスもそれでいいと許可してくれたので、僕はスヤスヤ眠ったままのセフィーゼの細い体を抱え上げた。

 すると驚くほど軽い。

 あまり力のない僕でも、余裕で背負うことができた。


 

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