(8)
ところが、クロードの発言を聞いたアリスが憤って叫んだ。
「何を言うかクロード! 万が一にでもそんなことになったら私が許さんぞ! よいかユウト? 必ずセフィーゼの足を魔法で治し、命を救うのだ!」
「は、はい……」
まいった。
アリスもクロードも、なぜかすでに僕が魔法でセフィーゼを治癒することを前提に話をしている。
確かに、彼女のことを助けたい気持ちがあるのは事実だけれど、しかし――
突然一人の少女の生死を背負わされてしまった僕は、強いプレッシャーを感じながら、とりあえず息も絶え絶えに横たわるセフィーゼの傍にしゃがみ込んだ。
「セフィーゼ、しっかりしろ!」
「…………」
一応励ましの声をかけるが、セフィーゼは薄目のまま瞬きを繰り返すだけで、僕のことが誰かも分からないようだった。
次に傷口を確認してみと、左足は根元からすっぱり切断されており、かなりの出血はあった。
が、あまりに切り口が鮮やかだったので、意外とグロさは感じない。
ここが魔法なんて存在しない現実世界だったしても、この状態なら、すぐに手術をすればうまく足を結合できたかもしれない。
「セフィーゼ、これなら大丈夫だ! きっと助かる」
もしも『エアブレード』の刃の当たる場所がわずかでもずれていたら、セフィーゼの体は確実に真っ二つになっていた。
そうなれば、どんな高度な魔法を使ったとしても命を救うことはできなかったに違いない。
つまりその点では、セフィーゼはまだ運がついている――
いや、違う!
そんなわけがない!
なぜなら、たとえここでセフィーゼが生きながらえたとしても、彼女に待っているのは結局“死罪”という逃れられない定めだからだ。
――そう遠くない未来に殺すために、今は生かす。
セフィーゼがロードラント王国にとっていかに大逆人であったとしても、そんな残酷でバカげた話があっていいのか?
アリスにしろクロードにしろ、そこに大きな矛盾を感じないのだろうか?
むしろいっそのこと、このまま安らかにあの世に送ってあげた方が、セフィーゼにとってまだ幸せなのではないか?
と、すでに死相が表れ始めたセフィーゼの顔を見ながら自問自答していたその時――
セフィーゼが手を伸ばし、僕の手を掴んでかすかに唇を動かした。
「……パ、パパ…………」
パパ……。
セフィーゼは意識が低下して幻覚が見えているのか、僕のことを、父親である死んだイーザの族長と勘違いしているらしい。
「パパ……いたい、いたいよ…………」
「セフィーゼ……」
セフィーゼのその様子は、あまりに弱弱しく哀れだった。
僕はアリスたちが見ていることも忘れ、思わずセフィーゼの手をやさしく握り返してまった。
すると、セフィーゼはわずかに安心したような表情を浮かべ、ふっと目を閉じた。
そこでもう、迷いは消えた。
こんな状態のセフィーゼを見殺しにすることなどとてもできない。
今はただ回復職として、死の淵にあるセフィーゼを救うのだ。