(11)
エリックとトマス、それに守備兵たちに城壁の守りを託し、僕たちは暴走するセフィーゼを捕えるため、塔の螺旋階段を駆け足で下り始めた。
だが、マティアスだけはいつも通り、アリスを行かせまいと必死に説得を試みる。
「アリス様、どうか――どうかここはクロードに任せ、安全な場所にご避難下さい!」
「ええい、マティアス! お前はいまだ私の性格を理解できないのか」
アリスはマティアスを振り払って言った。
「お前がいくら止めたところで、それを私があっさり受け入れると思うか?」
「しかしアリス様! 相手は狂気の風魔法使い。一瞬でも接触すればそれだけで危険ではありませんか!」
「マティアス、いいから離せ! 見ろ、クロードが一人でどんどん先に行ってしまうではないか。このままでは奴の言っていた面白い場面を見逃してしまうかもしれん」
お転婆とかじゃじゃ馬とか、月並みの言葉では表せないアリス王女の強い好奇心。
苦りきるマティアスの忠告を完全に無視し、アリスは目を輝かせながら、階段を二段、三段跳び越えて塔を下っていく。
しかし――
城の中庭の方から聞こえてくる、兵士たちの恐ろしい阿鼻叫喚の声が、アリスの表情を一変させた。
「セフィーゼめ、もうそこまでやって来ているのか!」
アリスが激怒し叫ぶ。
「そしてまたしても私の兵士たちを……許さん、許さんぞ! ――おい、クロード!」
クロードはすでに一階まで下り切って、中庭に通じる塔の出口の脇に立ち外の様子をうかがっていた。
遅れて着いたアリスは、そのクロードの腕をつかんで言った。
「クロード、あれだけ大言を吐いたのに何をしている! さあ、早くセフィーゼを捕えてみせよ。さもないと瞬く間に犠牲が増える!」
「お待ちくださいアリス様。急いてはことを仕損じます」
クロードは冷静さを失わないが、アリスが焦燥するのも無理はなかった。
というのも、魔法によって切断された兵士たちのむごたらしい死体が、すでに通路や庭のあちこちに転がっていたからだ。
セフィーゼが城内に侵入してからわずかな時間しか経っていないのに、まさかここまで被害が広がるとは、完全に予想の範疇を越えていた。
これは――思った以上のピンチかもしれない。
魔力を消尽しつくしたたミュゼットは除外するとして、今、城内にいるロードラント軍の中で、セフィーゼの魔法に歯止めをかけられそうなのは僕とクロードくらい。
つまり、もしも二人が倒れれば、セフィーゼがたった一人でこの城を制圧してしまうという、まさかの事態に陥りかねないのだ。