(1)
なんだろう、あれは?
雲ではない。無数の黒い何かが空を覆いつくしている。
――ああ、渡り鳥か。
鳥の大群が一斉に飛び立ち、太陽の光が遮られた。
ちょうどそんな感じに見えたのだ。
でもなんか様子がへん――
と、感じた時にはもう遅かった。
その細身の物体はどこかへ飛び去るどころか、放物線を描きながらこちらへ向かってビュンビュン落下してくるではないか。
「て、敵襲ーう!」
兵士の誰かが悲痛な声で叫ぶ。
次の瞬間、あちこちで凄まじい悲鳴が上がった。
矢、矢、矢、矢、矢、矢――
それは矢だった。
信じられないほどの数の矢が雨あられと降ってきたのだ。
「ひ、ひいぃいいい」
兵士たちはどうしてよいかわからず、ただ逃げまどうばかり。
竜騎士たちがなんとか混乱を鎮めようとするが、次から次へと降り注ぐ矢に対してはまったくの無力だ。
このままではリナとアリスが危ない。
「アリス様! とりあえず向こうに見える林の影へ! ――リナ、頼む。アリス様をお守りするのだ!」
レーモンが必死に叫ぶが、下手に動けるような状況ではない。
現に、また十数本の矢がこちらに向かって飛んできた。
「危ない――!!」
レーモンもその矢に気づいた。
即座に腰の剣を抜き「むっ」とうなる。
それから矢が落下してくるタイミングを見定め、すさまじい速さで剣を振ると――
「パキパキッ」と音がし、矢が次々と地面に落ちていった。
す、すごい……!
僕はあっけにとられた。
猛スピードで飛ぶ矢を空中で、しかも剣一本で払い落してしまうなんて神業としか言いようがない。
この人、年齢に似合わないとんでもない能力を持っているのだ。
「リナ、何をしている! 早くしろ!」
レーモンが矢を防ぎつつ怒鳴る。
「は、はい! さあ、アリス様、こちらへ」
リナは、アリスの手を引いて逃げようとした。
が、アリスは矢なんてへっちゃら、という顔をして言った。
「リナ、私に構うな。自分の身ぐらい自分で守れる。――おい誰か馬を引け。私が指揮して皆を救うぞ!」
「お、お待ちください!」
それを聞いたレーモンが、アリスを慌てて止めに入る。
「ここでアリス様の身に何かあったら、取り返しがつきません!」
「うるさい! 自分の身は自分で守れると言っているではないか! それに今の私にはユウトという強力な魔法使いがついていてくれる――」
と、そこまで言って、アリスが何かに気づき、僕に向かって叫んだ
「――おい、ユウト。危ないぞ!! 上だ。右上だ!!」
え!?
アリスにそう言われ、右の空を見上げると――
上空からに矢が迫っていた。
しかも数えきれないくらい本数が。
こんなの絶対に避けきれない。
――だめだ、やられる!




