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異世界最弱だけど最強のヒーラー  作者: 波崎コウ
第二十章 デュロワの包囲戦
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(5)

 いきなり男爵が叫んだ。


「あらミュゼット! アンタ、メイドの仕事はどーしたのよ!」


「へへへー」

 と、ミュゼットは階段を軽いスッテプで登りながら言った。

「ちょっと抜け出してきたっていうか、一休み一休み」


「まあ、結局サボりじゃない!」


「違うよぉ、ちゃんと姉さまたちから許可も取ったから。それにね、なーんだかずいぶんピンチっぽいじゃん。だからそろそろボクの出番かな? ってなんか思ったりして」


「もう、ミュゼットたら! せっかくメイドに戻ったと思ったら、また危険なことに首を突っ込もうとするんだから……」

 と、男爵がため息をつく。


「いやーメイド業も嫌いってわけじゃないんだけどね。でもま、やっぱりボクはみんなのために魔法で戦う方が性に合っているかな、なんてね。――あ、ユウ兄ちゃん!」


 ミュゼットは僕の姿を目ざとく見つると、守備兵の間をすり抜けてそばに寄ってきた。


「会いたかった。超うれしい!」

 

 ミュゼットは僕に体を引っ付かせ、無理やり腕を組んでくる。

 まるで恋人のようなその振る舞いに、兵士たちが顔を見合わせざわつき始めた。


 やれやれ、参った……。

 いくらミュゼットが天真爛漫(てんしんらんまん)で憎めないとはいえ、この切羽詰まった状況では、非常識と(そし)らても仕方ない。

 

「ヤダ! ミュゼットたら!」

 空気を読んだ男爵が、慌てて兵士たちをなだめる。

「みんなごめんなさいね。この子まだ子供から、大目に見てやってね」


「えーなんで男爵様が謝るのさ」


 むくれるミュゼットを僕はさりげなく押しのけ、咳払いをして言った。


「みなさんはおそらくご存じないでしょうが、実はこう見えても彼――いや彼女は炎の魔法を自在に操ることができ、その上王の騎士団(キングスナイツ)の一員なんです。ワイバーンを打ち倒すためぜひ協力してもらいましょう」


 王の騎士団(キングスナイツ)の名を出した途端、兵士たちが「おおっ」とどよめき、ミュットを見る目がガラリと変った。

 ロードラント王室直属の超エリート騎士団の威光は、こんな辺境の地にすら届いていたのだ。


「へへ……なんだか照れるな」


 耳目を集め、恥ずかしそうに頭を掻くミュゼット。 

 とにかく、これで役者と舞台装置はそろった。

 あとは城壁を破壊されるまでにワイバーンを倒し、生意気で卑怯なセルジュの鼻をあかしてやるまでだ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇


  

「さあ、みんな位置について! 砲門を開くのよ!」


 男爵が黄色い声で叫ぶ。

 しかし、城壁の上に出ているのは僕にグリモ男爵、ミュゼット、それに砲台の砲手十数名のみ。

 エリックとトマスを始め、他の守備兵たちは危険を避けるために城内に留まってもらうことにしたからだ。


「男爵様、いいんですか?」

 僕は男爵に念を押した。

「一応城に到達する前にワイバーンをすべて撃ち落とすつもりですが、こちらもそれなりに危ない――というか下手すれば死にますよ」


「もーユウちゃん、余計な心配しなくていいわよ。みんなが体を張って頑張ってくれているのに、城主であるアタシが隠れているわけにいかないじゃない」 

 

「それはそうかもしれませんが……」


 その心構えは立派だけど、ハイオークと出くわした時の男爵の混乱ぶりを考えると、果たして――?  

 

「なによユウちゃん、その不安げな顔は! ――あ! アレアレ、アレじゃない! 間違いないワイバーンよ!」

 男爵が北の空を指さした。

「思った通り、北の山に岩石を取りに行って戻ってきたんだわ! やったじゃない、まさに砲列の真正面に向かって飛んでくるわよ!」


 青く澄み切った空に浮かんで見える十頭のワイバーンの黒い影。

 その足の爪に大きな岩をがっちり掴んでいるのが、この位置からでも分かった。 


「おーワイバーンども、やっと来たか。ったく、ヤキモキさせやがって!」


 そう大声で叫んだのは、セルジュだった。 

 セルジュの乗るワイバーンは、僕たちが城内にいる間、デュロワ城から少し距離を置いて飛んでいたようだ。

 が、攻撃を再開のタイミングに合わせ、城の上空に舞い戻ってきたのだ。


「おまえらさぁ、ノコノコお城から出てきたはいいけどまさかそのしょぼい砲台でワイバーンを撃つ気なのか?」

 と、セルジュが僕たちを見下ろして言った。

「ばっかじゃねえの。そんなの攻撃で俺のワイバーン軍団を倒せるわけねーだろ」


 しかし本当にふてぶてしいというか、傲慢というか……。

 要するにセルジュはワイバーンの強さを過信し、僕たちを完全に舐めきっている。

 そして、その油断が戦場では時として命取りになるのだ。


「さーワイバーンども、岩をドカドカぶつけて城壁ごとこいつらを粉々にしちまえ!」

 羽をバサッバサッっとはばたかせこちらに近づいてくるワイバーンたちに、セルジュが号令をかける。

「さっきはドラゴがしくじったが、今度はそうはいかねーぞ! なにしろ十匹もいるんだからな。おいクソ白魔法使い! 逃げても隠れても無駄なことをすぐに思い知らせてやるぜ!」


「もー! ほんとムカつく子ね、あの子」

 と、男爵が空を見上げ、顔をしかめる。

「ねえユウちゃん、もういいでしょう? あのこまっしゃくれた男の子、さっさと懲らしめてやらない?」


「待ってください男爵様。もう少し――もう少し引き付けてから」

 僕は男爵をなだめ、ミュゼットの訊いた。

「ミュゼット、そろそろだけど、魔法は大丈夫?」


「もっちろん」

 と、ミュゼットは頭のメイドキャップの位置を直しながら言った。

「戦うメイドさんの準備はいつでもOKだよ!」


 そんな中、みるみるデュロワ城に迫るワイバーン。

 ただ、特大の岩石をひずめにはさんでいるせいか、動きはさっきよりやや鈍い気がした。


 これはラッキー。

 わざわざ狙い撃ちしてくれと言っているようなものだ。



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