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異世界最弱だけど最強のヒーラー  作者: 波崎コウ
第二十章 デュロワの包囲戦
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(4)

 ほうほうのていで飛んで逃げていくワイバーン・ドラゴ。

 僕はその姿を見ながら、トマスの丸太のような腕をぎゅっと握った。


「ありがとうトマスさん! こんなに何度も何度も助けてもらって、命の恩人としか言いようにないよ」


「へへへ……」


 思わずうるうるしてしまった僕を見て、トマスは照れ笑いをする。

 この殺伐とした状況の中で何とも癒される笑顔だ。

 口数は少ないが、たぶんトマスは、異世界で出会った人の中で一番気がやさしい。 


「いやあ、危ねえ危ねえ。助かったぜ、トマス」

 と、エリックも額の汗をぬぐいながら言った。

「俺としたことがワイバーンの強さを見誤っちまったようだ。ユウト、すまなかったな。矢とお前の魔法を組み合わせて奴の目を狙えばてっきり倒せると思ったんだが……」


「ううん、エリックが謝る必要ないよ」

 僕は首を横に振った。

「だって今の戦い方の方向性は間違ってない――というかそれで正解だと思うんだ」


「なに? それはどういう意味だ?」


「意味もなにも、僕の『エイム』の魔法を使ってワイバーンに何かぶつけて撃ち落とすってことだよ。問題は弓矢よりずっと威力のある武器が必要っていう点だけ――」


 と、そこまで言いかけた時、ワイバーンに乗ったままのセルジュの叫びが聞こえた。

 羽を大きくはばたかせ、どんどん遠くの方へ逃げていくワイバーン・ドラゴに向かって吠えているのだ。


「おいドラゴ! お前どこ行っちゃうんだよ? バカッ、戻ってもう一度こいつらを殺れよ!」


 だが、ワイバーン・ドラゴはセルジュの命令に従うことなく、そのままあさっての方向へ飛んでいってしまった。

 トマスの棍棒にスマッシュヒットされたのが、よほど堪えたらしい。


「チクショウ! ほんとに使えねー獣だな。だいたいさ、お前らワイバーンときたら地頭が悪すぎるんだよ。もしかしたら犬か猫の方がよっぽど賢いかもしれないぜ」


 癇癪かんしゃくを起こし、腹立ちまぎれに自分の騎乗しているワイバーンに当たり散らすセルジュ。

 いいように乗り回され、こんな風に八つ当たりまでされてしまっては、ワイバーンもたまらない。


「しっかし残りの連中もおせーな! なにノロノロしてんだよ」

 セルジュは今度は、城壁を破壊するための岩を取り行った残り十体のワイバーンに対し悪態をつき始めた。

「このままだと白魔法使いどもに逃げられちゃうじゃねーか」


 セルジュのやつ、僕のことが本当に憎いのなら自分で攻撃してくればいいのに。

 それをしないのはおそらく、反撃されダメージを受けることを恐れているからだろう。

 まったく用心深いというか、卑怯というか……。


 とはいえ、ワイバーンがいなくなり、セルジュが往生している今こそ、こちらの体制を立て直す絶好の好機(チャンス)なのだ。


「エリックにトマスさん」

 僕は二人に言った。

「ここはひとまず、守備についている兵士さんたちを含め全員城内に引き上げましょう」


「なに? 全員引き上げる? ってことは城の守りを放棄するってわけか。だが、そうなるとしばらく奴らのやりたい放題になるが……」

 と、エリックは怪訝な顔をして聞き返す。


「うん。でもエリック、その点は心配しなくても大丈夫。ワイバーン相手にこれ以上に犠牲者を増やさないためのあくまで一時的なことだから。それにワイバーンを魔法を使って撃ち落とすのに大勢の人数はいらないでしょ?」


「ははぁーん、確かにそれもそうだな。――よしユウト、分かった!」

 エリックは深くうなずき、それから、デュロワ本城とそれを囲む城壁の上に配置された五十数名の守備兵に向かって呼びかけた。

「おーいみんな、急いで城の中に撤収してくれ! 後は俺たちに任せてくれていいぞ!」


 この指示は、客観的に見ればかなり突拍子がないものだろう。

 ところが兵士たちは誰一人反対せず、素直にエリックに従い直近の出入り口から城内に引き上げて行く。

 どうやらエリックはリーダーとして、すでにみんなから厚い信頼を集めているらしい。

 

「あーやっぱり逃げやがったぁ!!」


 一方セルジュはその様子を空から見て、ますますわめき散らす。

 しかし案の定、自分からは攻撃はしてこない。

 空をぐるぐる旋回しながら、岩石を取りに行ったワイバーンたちの帰りをただ待っているだけだ。


「さあ、今のうちに僕たちも!」


 騒ぐセルジュは放っておいて、僕とエッリクは塔の中に戻った。

 トマスもその後に続く。


 するとそこで僕たちは、螺旋階段を駆け上がってくるグリモ男爵と数十名の兵士と鉢合わせになった。

 約束通り、男爵がデュロワ城の他の守備兵たちを引き連れ加勢にきたのだ。


「男爵様、ちょうどよかったです!」

 と、僕はゼーゼー息を切らしている男爵に向かって言った。

「ぜひ伺いたいことが」


「……ちょ、ちょっと待って。ユウちゃん、いきなりなんなのよ。さっきから外が妙に静かになっちゃってるけど、いったい何事なの? アタシ、まず今の状況を知りたいわ」


「ああ、すみません」


 時間があまりないので、僕はごく手短に、空からセルジュ率いるワイバーン部隊が襲撃してきたことを男爵に説明した。

 

「あらまあ、よってたかってアタシの美しいお城をボコボコにしようとするなんて、なんて乱暴なんでしょう! 許せないわ!」

 男爵が憤って叫ぶ。

「――それでユウちゃん、あなた兵士を引き揚げさせて、何をどうしようっていうの?」


「男爵、そのことなんですが――さっき外に出たとき城壁に砲台が何門も設置されているのが見えたのですが、あれは今でも使用できるのですか?」


「もちろんよ! ねぇユウちゃん、あの大砲たちったら、おっきくて黒光りしてすっごく立派でしょう?」


「……はぁ」


「すでに火薬も装填してるから、いつでも発射準備OKよ。……でもさ、あれは地上から攻め寄せてきた敵に向かって鉄球を撃ちこむもので、空中に向かってぶっ放すものじゃないわよ」


「ええ、それは分かっています」


 この異世界に高射砲のような対空兵器があるはずもない。

 が、それでも火薬の爆発によって射出された砲弾は、少なくとも人力の弓矢よりは、遥かに攻撃力は高いに違いない。


 だが――


 男爵の説明によれば、大砲の弾は単なる鉄球。

 つまり対象に命中したとき、弾自体が爆発するような高度な技術はないのだ。


 敵が普通のモンスターならともかく、相手は強力なワイバーン。

 もうひと押し!

 もうひと押し何か加えて、砲弾の威力を高めることはできないだろうか?


 と、思案していたその時、やけに元気な声が塔の中に響き――


「お、なんかみんなで楽しそうなことやってんじゃーん^^」


 相変わらず最強にかわいい、男の娘メイド・ミュゼットが現れたのだった。

  

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