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異世界最弱だけど最強のヒーラー  作者: 波崎コウ
第二十章 デュロワの包囲戦
225/317

(3)

「お前ら!」

 と、セルジュがワイバーンたち乱暴に命令を下す。

「もう雑魚はどうでもいい! とにかく城壁を徹底的に壊しちまえ! この城にアリス王女が隠れてることは分かっているんだからな、絶対に生け捕りにするんだ!」


 やっぱり、セルジュの狙いはあくまでアリスらしい。

 相変わらず己の欲望優先で、戦いに勝利することなど二の次三の次なのだ。

 

「ったく、あのクソガキめ!」

 それを聞いていたエリックが忌々しげに言う。

「かわいい顔してるくせに、かわいくねーこと抜かしやがる」


 しかし、どうする?


 たとえセルジュの目的がアリスだとしても、城壁を破壊された時点でロードラント軍の負けは確定。

 エリックの指摘通り、城の中になだれ込んでくるコボルト兵やイーザ騎兵に抵抗するすべはほとんどないからだ。

 なので、そうなる前に、何としてでも十二体のワイバーンをやっつけなければならないのだが――


 弓矢や槍では太刀打ちできない空飛ぶ怪物相手に、何かダメージを与えられそうなものはないか?

 と、僕が城の屋上を見まわしていると、突然セルジュが叫んだ。


「ああっ! お、お前、あの白魔法使い!!」


 この中で白魔法使い――

 ということは、僕以外いない。

 

「よくもよくも!」

 セルジュはワイバーンに跨ったまま僕を見て、顔を真っ赤にして怒っている。 

「俺のレムスを殺られた恨み、忘れねーぜ!!」

  

 ……正確に言えば、襲いかかってきたサーベルタイガーのレムスを剣で突き殺したのはアリスなのだが、セルジュはそう思っていないらしい。 

 しかも、あれは完全な正当防衛。

 恨まれる筋合いはまったくないはずだが、身勝手な悪童セルジュにその理屈は通じない。

 

「おい、命令は一部撤回だ! ドラゴ、お前はあいつを殺せ!」

 セルジュは僕を指さしながら、怒りまかせに喚き散らした。

「他の奴らはとっとと城壁を壊す石を運んで来い。さあ行け!」


 セルジュの態度は極めて横柄だが、それでもワイバーンたちは獣使い(ビーストテーマ―)の命令には従順だった。

 セルジュを乗せたワイバーンを除く十一体のうち、十体は石を探しに北の方角へ一斉に飛び去っていった。

 そして残りの一体、近くを飛んでいたワイバーン・ドラゴが、僕を標的にして風を切り爪を立てながら急降下を始めたのだ。


「行けドラゴ!」

 と、上空からセルジュがけしかける。

「ぼろきれみたいに爪で八つ裂きにしちまえ!」


 ――くそっ、まだ戦う手立てを何も思いついていないのに!


 やむを得ない。

 ここはとりあえず『ガード』の魔法でしのぐしかない。

 そう思って僕が魔法を唱えようとした時、エリックが矢をつがえた大弓を引き絞りながら言った。


「ユウト、俺が弓を放ったら『エイム』の魔法で奴の目を狙え!」


「わ、わかった」


 なるほど、エリックは僕がハイオークを倒した時のことをヒントに、ワイバーンの急所を狙い撃ちするつもりなのだ。 


「ユウト、頼むぞ!」


 エリックがタイミングを見計らい、空めがけ矢を放つ。

 ワイバーン・ドラゴの影はもうすぐそこまで迫っていたので、僕は間髪入れず魔法を唱えた。


『エイム!』

  

 エリックの矢が魔法の効果を受け一瞬光輝き、速度と威力を増す。

 さらに軌道が微妙に変わり、ワイバーンのつり上がった黄色い蛇目に向かって、矢はストレートに飛んでいった。


「いいぞ、ユウト!」


 エリックが叫んだのと同時に、『エイム』の魔力を得た矢がワイバーンの目にざっくりと突き刺さって――


 いない?!


 驚いたことに、矢はワイバーンの目の表面――水晶体に当たった瞬間、まるで鋼鉄の盾にぶつかったかのようにあっさり跳ね返ってしまったのだ。


「ハハハ、ばーか!」

 と、頭上からセルジュの高笑いが聞こる。

「そんなヤワな攻撃、ワイバーン(ドラゴ)に効くかよ!」


 ワイバーン・ドラゴはそのまま空中で羽を広げ滑空し、その鋭い爪で僕を鷲掴みにしようする。 

 もう避けることはできない。


 万事休す!

 空飛ぶモンスターを目の前にして身がすくむのを感じながら、必死に『ガード』の魔法を唱えようとした、その時。


「ふんぬっ!!」


 という気合の入った声とともに、一人の巨漢が僕とワイバーン・ドラゴとの間に割り込んできた。

 その特徴的ともいえる大きな体――顔を確かめるまでもなかった。


「トマスさん!」

 

 トマスはほとんど木の幹のような棍棒を振り回し、ドラゴの首をぶん殴ったのだ。

 この攻撃はさすがに堪えたらしく、ドラゴは「グェェ」と怪音を発して痛そうに哭くと、巨大なコウモリのような羽を羽ばたかし、いったん上空に逃げていった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 ああ……。

 またしてもトマスさんに助けてもらってしまった。


 たった一度お昼ごはんを分けてあげただけなのに、僕のためにこんなに何度も体を張ってもらうなんて、いくらなんでも申し訳ないような気がする。



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