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異世界最弱だけど最強のヒーラー  作者: 波崎コウ
第二十章 デュロワの包囲戦
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(2)

 その時、エリックが感慨深げに言った。


「ユウト、右も左も分からなかった最初のころに比べれりゃお前もずいぶん成長したなあ。それに情けねえが、いま城の上空をぶんぶん飛びまわっている化け物はクセがあるどころじゃねえ、俺たちじゃあとても倒せん。つまりどうしてもお前の魔法の力が必要になっちまう」


「大丈夫、任せておいて。――でもエリック、空を飛び回ってるっていったいどんな敵?」 


 と、僕が尋ねたその時。

 ふたたび「ドンッ!」と強い衝撃音がして天井の一部が崩れ、細かい石がパラパラと頭の上に落ちてきた。


「ちぇっ! どうやら詳しく説明している暇はなさそうだぜ。――ユウト、行こう。城の主塔(しゅとう)から屋上に出るんだ! さあ、こっちだ!」

 

 エリックはそう叫び、お城の長い廊下を一気に駆け出した。

 もたもたしてたら見失ってしまいそうなので、僕も全速力で走って懸命にエリックの背中を追う。


「ユウちゃん、エリック!」

 と、男爵が背後から叫んだ。

「アタシは急いでお城の兵士たちを招集して合流するから、先に行っていて。いい? くれぐれも気を付けるのよ!」


「了解です!」


 おそらく普通の兵士が何人束になってかかっても、空を飛ぶ敵に対しては手も足もでないだろう。

 とはいえ男爵を止める理由も特になかったので、僕とエリックは先を急ぐことにした。

 

 エリックはすでに、複雑なデュロワ城の内部構造を正確に把握しているらしく、幾つもの部屋と廊下を次々と走り抜けていく。

 おかげで僕は一度も迷うことなく、お城の南端に位置する円筒形の塔の内部に入ることができた。

  

「ユウト、この塔を登って城の屋上に出るぞ」

 エリックが僕の方を向いて言った。

「階段が急でちょっとばっかりハードだから、ふらついて転げ落ちないように気をつけろ!」


 確かに、塔を登るらせん状の階段は、てっぺんに到達するまでにはかなりの距離があり、おまけに勾配もきつかった。

 これが現実世界ならエレベーターを設置するところだろうが、もちろん今は自分の足を使うしかない。


「ユウト、頑張れ! もうすぐだ!」


 エリックに励まされながら、階段を一段飛びで急ぎ駆け上がる。

 しかし、塔をおよそ三分の二ほどまで登ったとろでさすがに息切れを感じ、一瞬立ち止まると――


「あっ――!」


 窓の外に広がる青い空に、羽を広げた黒い巨大なモンスターが横切るのが見えた。


 もしやあれは翼竜――ワイバーン!?

 しかも敵は一体だけではなかった。

 複数の、おそらく十体以上のワイバーンが、城の上空を旋回している。


「ん? 見えたか、ユウト?」

 僕の前を行くエリックが、階段の途中で振り返って訊く。


「うん、あのモンスターって、もしやワイバーン?」


「おお、よく知っているな。実は俺もお目にかかるのは今日が初めてだったんだが、まず違いねえぜ――うわっと!」


 その時、『ドーンッ』というひときわ大きな破壊音がして、塔全体が揺れた。

 僕もエリックもバランスを崩し、思わず石の壁に手をつく。

 どうやら塔の外壁に何かがぶつかったらしい。


「危ねえ危ねえ! くそっ! あのワイバーンども、どこからか大きな岩をひづめで掴んで運んできてばんばん放ってきやがる。それで城壁と城をぶっ壊して地上から攻め入るつもりなんだ」

 と、エリックが額の汗をぬぐった。


「じゃあ、このままだと――」


「ああ、早く何とかしないとまずい。守り難し逃げ難し、ひとたび壁を崩された城ほど脆いもんはないからな。だがあいつら羽が生えてるぶん、ハイオークなんかよりもはるかにタチが悪いぜ。スピードが速いから弓を撃っても槍を投げてもなかなか当たらねえ」


「……分かった、エリック、とにかく外に出よう」


 そうは言ったものの、空中を自在に飛び回る敵を相手に、どうやって対抗しようか――?

 しかもワイバーンは上級モンスター。

 さっきは“任せておいて”なんて大見得を切ってしまったが、生半可なレベルでは倒せない相手なのだ。


 胃がキリキリと痛むのを感じながら、僕は塔のてっぺんまで登り切り、薄暗かった城内から屋上に出た。

 途端に視野が開けまぶしい陽の光を感じ目を細めると、そこに見えたのは、青く透き通る空に浮かぶ複数の不気味なワイバーンの影――


「十二体だ」

 と、エリックが言う。

「全部で十二体いる」


 その十二体のワイバーンと戦っているのが、デュロワ本城と、周囲を囲む城壁の上に配置された守備兵わずか五十数名。


「ひるむなー!!」

「射て射てー!!」


 兵士たちはお互いを鼓舞し合いながら、弓やクロスボウで果敢に反撃してはいる。

 が、ワイバーンにはまったく歯が立つ様子はない。

 なにしろ、空中をかなりの速度で飛び回るワイバーンに矢はなかなか当たらないし、たとえ命中しても、いかにも硬そうな黒い鱗に簡単に弾き返されてしまう。


 そしてワイバーンも、ただ城や城壁を破壊しようとしているだけではなかった。

 守備兵に対し、大空から急降下しその鋭い爪で襲いかかったり、黒い羽を大きく羽ばたかせ風を起こし城壁の上から吹き飛ばそうとしたりと、かなりの凶暴性を発揮していた。


「みんなよく戦っているが、もう何人かワイバーンの餌食になっちまった」

 エリックが大弓に手に取りながら言った。

「さて、どうするか……」


「弱ええーーー! お前ら弱すぎーーー!」

 と、そこに響く少年っぽい、無邪気な声。

「こんな一方的じゃあ、面白くともなんともねえな」

  

 声のした方――つまり空を見上げると、一体のワイバーンの首の付け根に、遠目でもはっきりとわかるくらいの美少年がまたがっていた。


 あのおとぎ話に出てくる妖精のような美しい少年は、セルジュ。


 僕とアリスとのデュエルに敗れた双子の姉セフィーゼから、イーザ族の族長の地位を奪い取り、さらにアリスを捕え嬲りものにしようとした邪悪な獣使い(ビーストテイマー)だ。


 

 

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