(12)
だが、囚われのリナの身の上を考えると、アリスにどんなに感謝されても素直に喜ぶことはできなかった。
「あの、リナ様のことは――」
僕はアリスに恐る恐る尋ねた。
「おお、その件についても聞いているぞ」
アリスは抱きしめていた手をほどき、僕の目を見て言った。
「リナは最初、どうしてもお前に付いてゆくと言ってきかなかったそうだな」
「はい……」
「そして戦場の手前で、偶然リューゴたち王の騎士団に出会えたと」
「その通りです……」
「うーむ。やはり恋人同士というものは、何時なんどき、どこへいてもお互い引き寄せられてしまうものなのだろうか? ――まあ、結果良ければすべて良しだ。リナもリューゴと再会できてさぞ喜んだことであろう」
「はい……」
「とはいえ、リナが私を置いてリューゴと一緒に王都に戻りたいと言い張るとはな。それほどまでに二人の仲は熱いということか。愉快愉快」
リナに関して、男爵とマティアスがついた嘘を頭から信じているアリスは、そう言って朗らかに笑った。
が、僕の心境はめちゃくちゃ複雑で、笑っていいのか泣いていいのか、どう受け答えすればいいのか自分でも分からなかった。
「……ん? どうしたユウト、顔色が優れないように見えるぞ?」
いきなり黙ってしまった僕に、アリスがやさしい声をかける。
「い、いえ、大丈夫です。ただ少し疲れが……」
「なるほど、無理もない。よし! 王都から救援が到着するまで、ユウトも一人でゆるりと休むとよい。――が、その前に……」
アリスが一瞬恥ずかしそうな表情をして言った。
「ユウトのこの度の殊勲甲に値する働きに対し、ロードラント王家の習わしにのっとってお前の額に私の口づけを与えたい」
「は!? 額にキス……ですか?」
「何を驚く? 王国の臣下にとってこれほどの名誉は他にないぞ」
「い、いや! そんな恐れ多いこと、僕にはもったいないので、辞退いたします!」
みんなしてアリスを騙くらかしているといのに、そんなことをしてもらうのはいくらなんでも気が引ける。
そしてなにより、さっきから背中に感じているジリジリ焦げ付くようなミュゼットの視線が――
部屋の端っこで控えているメイドミュゼットのアリスに対する嫉妬のオーラが、怖いことになっているのだ。
相手が王女だけに、ミュゼットもさすがに自制しているのだろう。
が、ミュゼットは大人びているようで中身は幼稚なところがあるから、そろそろ抑えが利かなくなるかもしれない。
まさかとは思うけれど、アリスに暴言を吐いたり、つかみかかったり……。
僕は心配になって、ちらりとミュゼットの立っている方を見た。