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異世界最弱だけど最強のヒーラー  作者: 波崎コウ
第十九章 兄弟と兄妹
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(9)

「確かリナは、魔法薬の効き目は十日間でなくなると言っていた。今日でリナが薬を飲んでから確か今日で四日目だから……」


「つまり、なんとしてでもあと七日、いいえ、余裕を持って六日――六日以内にリナさんを見つけ取り戻さないとダメかな。でないとリナさんの命運はそこで尽きちゃうってこと」

 と、セリカはいかにも楽しそうに言った。


「……清家さん、笑顔が隠しきれてないよ」


「フフフ、だって救出までの期限が限られてますます盛り上がってきたでしょう? まるで映画だわ」


「映画って……そんなことよく軽々しく言えるね。これはフィクションではなく、実際にリナの命がかかっているのに」


「軽々しいんじゃなくて、私は自分の正直な気持ちを告白してるの。ユウト君と違って、私はリナさんと特に親しいわけではないし」


「……所詮は他人事、というわけか」


「まあ言い方を変えれば、そうかもね。――あ、どうやらもう一人のかわいいヒロインがやってきたみたい。じゃあ、せいぜい頑張って。私はいつでも現実世界からあなたを応援してるから」


 セリカは無責任なセリフを残して、いきなり通信を切った。

 その直後――


 トン・トン・トン。


 誰かがドアをノックする音が聞こえた。


「お待たせしました、ご主人様♡」


 あれ?

 このやや子供っぽく澄んだ女の子の声だ。


 ドアの向うにいるのは、絶対にミュゼットだ。

 でも、なんで『ご主人様』?


 不思議に思いながらスマホを袋にしまい、ドアを開ける。


 次の瞬間――

 僕の理性の糸は、プツンと音をたてて切れた。


「ミュ、ミュゼット……その格好は……?」


「へへ、ちょっと恥ずかしいんだけど、お城に帰ってきた以上、このメイド服を着て仕事しろってロゼット姉様に言われちゃったの」


 まったくの予想外。

 そこに立っていたのは、世にも可愛いらしい完全体男の娘メイド、ミュゼットだったのだ。  

「……どうかな? この格好、おかしくない?」


 ミュゼットが顔を赤くしながら、上目づかいに訊いてくる。

 最初に会った時の、やさぐれた態度が嘘のような純情さだ。


「い、いや、とってもよく似合ってる……よ」

 僕はゴクリ、と唾を飲み込んで言った。


「ほんと? ありがとう――!!」

 と、ミュゼットは心底嬉しそうに笑った。

「メイド服なんて着るの久し振りだから、ヘンに見えないか心配だったの」


 変どころではない。

 黒のメイド服に裾が短めのメイドスカート、純白のメイドエプロン、そしてメイドカチューシャを身に付けたミュゼットは、掛け値なしの極上の可愛さだった。


 あえて陳腐な表現を使えば、心臓ハートのど真ん中を射抜かれてしまったというか、萌え狂いそうになってしまったというか……。

 リナやセリカのことを一瞬忘れてしまうぐらいのインパクトだ。


 ――いや、待て待て!


 と、胸の鼓動を必死に抑える。


 ミュゼットは男だ……。

 男なんだぞ!


「あれれ、ユウ兄ちゃん――」

 ミュゼットはそんな僕の葛藤も知らず、目を丸くして言った。

「じゃなくて、ご主人様、まだ着替えてないんだ? 男爵様が待っているよ」

 

「ご、ごめん。ちょっとボーっとしていて」


「そうなんだ。じゃあボクが手伝ってあげるから、中に入って入って!」


 ミュゼットはそう言って、遠慮する僕を強引に部屋の中へ押し込めた。

 

「えーと、服はそっちのチェストにあるからっと……」


 ミュゼットは着替え一式を取って来て、べッドの上に置いた。 

 それから僕の寝巻を引っ掴んで言った。

 

「さーご主人様、ボクが着替えさせてあげるね♡」


 と、その拍子に、二人の体と体が自然と触れ合ってしまう。 


 ミュゼットの何とも柔らかな感触と温もり――

 それを感じ、全身に甘いざわめきが走る。


 や、やばい!

 このままだと、本当に下半身が反応してしまいそうだ。


「ミュゼット、いいから! 自分でできるって」

 と、僕は慌てて着替えを手に取って、部屋の隅の方へ退避した。

 

「えーボクがやってあげるのにぃ」

 

「いや、何というか……ほら、こういうこと慣れてないから。恥ずかしいんだ。――あ、そうだ! なら悪いけどベッドを直しておいてくれるかな? 起きた時のままだから」


「はーい。かしこまりました」


 ミュゼットは少々不満げな顔をしながらも、テキパキとベッドメイクを始めた。

 この慣れた手つき――

 おそらく騎士になる前、ちゃんとメイドの修業を積んでいたのだろう。


「あのさ、ミュゼット」

 と、僕は寝巻を脱ぎながら尋ねた。

「ミュゼットはなんでお姉さんたちと違って、いやお兄さんか――なんで一人だけ騎士になったの?」


「あ、それはね」

 シーツの皺を伸ばしながら、ミュゼットが答える。

「男爵様に拾われてから、ボクも姉さまたちとこのお城でメイド修業をしてたんだけど、たまたまお城にやってきた偉い竜騎士の人に魔法の才能を見込まれ、王の騎士団(キングスナイツ)にスカウトされたの」


「なるほど、それでメイドの仕事もで出来るんだ」


「ヘへ……まあね。でも、ボクとしてはやっぱり騎士として、弱い人や困っている人を少しでも多く助けてあげたいんだ。男爵様は危険だからって反対してるけどね」

 

 幼いころに両親を亡くしたせいか、ミュゼットはやけに健気でしっかりとしている。

 それに比べ僕は……。

 現実世界を逃げるように去って、この異世界でいったい何をやろうとしているのだろう?

 

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